インジュー朝

インジュー朝 (Āl-i Īnjū)

インジュー朝は、14世紀にイランのファールス地方を支配した地方政権です。「インジュー」とは「王領」を意味し、イル[[ハン朝]]の王領を管理していた一族に与えられた称号に由来します。

歴史

王朝の創始者であるシャラフッディーン・マフムード・シャーは、ヘラート出身のスーフィー、アブドゥッラー・アンサーリーの子孫とされています。1303年/1304年、イル[[ハン朝]]の君主オルジェイトゥは、マフムード・シャーをファールス地方の知事に任命しました。マフムード・シャー自身はソルターニーイェのイル[[ハン朝]]宮廷に留まり、マスウード・シャー、カイホスロー、ムハンマドら3人の息子に統治を委ねました。

ファールス地方の経済力を背景に、インジュー家は力をつけ、ペルシア南部の政治・経済を掌握していきます。有力者のチョバンが処刑された後、マフムード・シャーは彼の地位を継承し、ワズィール（宰相）のギヤースウッディーンと婚姻関係を結び、政務に携わりました。

1333年/1334年、イル[[ハン朝]]のアブー・サイード・ハンによってムザッファル・イーナークが新たなファールスの長官に任命されると、マフムード・シャーはイーナークを敵対視する貴族と共謀して彼を襲撃する事件が起きます。イーナークが逃げ込んだアブー・サイードの宮殿には矢が放たれ、襲撃に参加した貴族はアブー・サイードが没するまで監禁されましたが、マフムード・シャーと彼の子はギヤースウッディーンの仲介によって釈放されました。アブー・サイードの死後、シーラーズのカイホスローはイーナークを捕らえ、ソルターニーイェに送還しました。

アブー・サイードの死後、イル[[ハン朝]]が崩壊に向かう中で、マフムード・シャーの4人の息子は権力を巡って争い、チョバン朝のシャイフ・ハサン（小ハサン）、ジャライル朝のシャイフ・ハサン（大ハサン）、ムザッファル朝のムバーリズッディーン・ムハンマドが権力闘争に介入しました。1335年、ハンに推戴されたアルパ・ケウンはマフムード・シャーを処刑し、マスウード・シャーはタブリーズの大ハサンの元に逃亡しました。アルパの次にハンに即位したムハンマド・ハンの政権でマスウード・シャーはワズィールの地位に就いてファールスの支配権を承認され、ファールスの支配権の放棄を拒否したカイホスローとムハンマドを投獄し、1338年にカイホスローは獄死しました。脱走したムハンマドは小ハサンの甥ピール・フサインと連合し、1339年にサルヴェスターンの戦闘でマスウード・シャーを破りますが、ピール・フサインはムハンマドを処刑し、ファールスの単独の支配者となりました。

シーラーズの住民の放棄によるピール・フサインの追放、マスウード・シャーの反撃の失敗を経て、ピール・フサインがシーラーズの支配者となり、マスウード・シャーと彼の実弟アブー・イスハークはチョバン朝の有力者と同盟して反撃の機会をうかがいました。

1342年、アブー・イスハークは小ハサンの兄弟マリク・アシュラフと協力してシーラーズを奪回しましたが、小ハサンの叔父ヤギ・バスティと同盟したマスウード・シャーに東部のシャバンカーラ地方に退却しました。マスウード・シャーとヤギ・バスティの共同統治体制が一時的に成立しましたが、同1342年にヤギ・バスティはマスウード・シャーを殺害します。アブー・イスハークはシーラーズの住民や近隣の主張の支援を受けてヤギ・バスティをシーラーズから追放し、翌1343年にマリク・アシュラフとヤギ・バスティはシーラーズに進攻しますが、タブリーズの小ハサンが急死したため遠征は中止されました。アブー・イスハークはインジュー朝の単独の支配者となり、貨幣とフトバに自らの名前を入れました。

ファールスの支配を掌握したアブー・イスハークはムザッファル朝と戦い、抗争は長期にわたりました。1345年からムザッファル朝とケルマーンの支配を争い、多額の軍費を費やして複数回の遠征を実施しますが失敗し、多くの兵士を失いました。ケルマーンを巡る争いに勝利したムバーリズッディーン・ムハンマドは1353年にシーラーズに進軍し、6か月に及ぶ包囲を敷きました。包囲の中でアブー・イスハークはシーラーズの市民、周辺の指導者に疑いを募らせて彼らを排除し、離反したシーラーズの人間はムザッファル朝を支持し、彼らを市内に引き入れました。アブー・イスハークは大ハサンの援助を受けるがシーラーズを奪回できず、エスファハーンに逃れました。1357年にエスファハーンもムバーリズッディーン・ムハンマドに占領され、同年5月にアブー・イスハークはシーラーズで処刑されました。

文化

歴史家のイブン・ザルクーブ、詩人のハーフェズらインジュー朝時代のシーラーズの知識人はアブー・イスハークの人格を称賛するとともに、学芸の保護者としての側面を書き残しています。

インジュー朝時代のシーラーズには、多くのイスラームの聖人の霊廟が建立されました。アブー・イスハークはクテシフォンのホスローのイーワーンを模した建造物をシーラーズに建設する計画を立てましたが未完に終わり、建築の痕跡は残されていません。シーラーズの金曜モスク内の図書館はインジュー朝時代に建設された建物で、第3代正統カリフウスマーンが記したと伝えられるクルアーンが所蔵されています。

歴代君主

シャラフッディーン・マフムード・シャー（在位：1325年 - 1336年）
ジャラールッディーン・マスウード・シャー（在位：1336年 - 1342年）
ギヤースッディーン・カイホスロー（1338年没）
シャムスッディーン・ムハンマド（1339年没）
アブー・イスハーク（在位：1342年 - 1353年）

参考文献

渡部, 良子「イル[[ハン朝]]の地方統治 ファールス地方行政を事例として」『日本中東学会年報』第12巻、日本中東学会、1997年。
ドーソン 佐口透訳 (1979年), モンゴル帝国史, 東洋文庫, 6, 平凡社
“INJU DYNASTY”. Encyclopedia Iranica. 2024年2月閲覧。

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