イントロデューシング・ザ・ビートルズ

Introducing... The Beatles：ビートルズとアメリカの出会い

1960年代初頭、イギリスで旋風を巻き起こしたビートルズ。その人気は海を越え、アメリカ進出という大きな転機を迎えます。しかし、彼らのアメリカでのデビューは、予想外の展開を辿ることになります。

まず、彼らのイギリスでのレーベルであるパーロフォンは、アメリカでのリリースに向け、資本提携関係にあったキャピトル・レコードに発売を持ちかけました。しかし、キャピトルはこれを拒否。代わりに、リズム＆ブルースやジャズを扱う小さなレーベル、シカゴのヴィージェイ・レコードが選ばれたのです。EMIはヴィージェイの音源のイギリスにおける販売権を保有していたため、この選択が可能になりました。

1963年2月7日、ビートルズはヴィージェイよりシングル「プリーズ・プリーズ・ミー/アスク・ミー・ホワイ」でアメリカデビュー。その後もシングルをリリースし、同年7月22日には、待望のアルバム『Introducing... The Beatles』が発売されます。このアルバムは、イギリス盤『プリーズ・プリーズ・ミー』を基に、アメリカでのLP標準である12曲に再構成されたものですが、ジャケット写真の反転や、楽曲「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」冒頭のカウントのカットなど、制作過程における粗雑さも目立ちました。

当時、アメリカでのビートルズの人気は皆無に等しく、ヴィージェイの知名度も低かったため、このアルバムもヒットには至りませんでした。その後、ビートルズは別の小規模レーベル、スワン・レコードに移籍しますが、そちらもヒットには恵まれませんでした。

しかし、ビートルズの人気が徐々にアメリカにも広がり始めると、状況は一変します。当初は乗り気でなかったキャピトルも、シングル「抱きしめたい/アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」とアルバム『ミート・ザ・ビートルズ』をリリース。これらは記録的な大ヒットを記録し、ビートルマニアが巻き起こります。

この時点で、ヴィージェイは依然としてビートルズのアルバムの販売権を所有していました。キャピトル盤の大ヒットを受け、ヴィージェイは1964年2月、『Introducing... The Beatles』を再発売します。この再発盤では、「ラヴ・ミー・ドゥ」が「アスク・ミー・ホワイ」、「P.S.アイ・ラヴ・ユー」が「プリーズ・プリーズ・ミー」に差し替えられていました。

ビートルマニアの盛り上がりを受けて、この再発盤は大きな成功を収めます。『ビルボード』誌のアルバム・チャートで9週連続2位を獲得するなど、大きな注目を集め、2014年にはプラチナ認定を受けるまでに至りました。しかし、ヴィージェイはその後、財務状況の悪化により倒産してしまいます。

1965年前半には、ヴィージェイの販売権が失効し、キャピトルが『Introducing... The Beatles』の楽曲を多く収録したアルバム『ジ・アーリー・ビートルズ』をリリースしました。

『Introducing... The Beatles』は、ビートルズとアメリカの音楽史における重要な作品です。キャピトルという大企業を飛び越えて、小さなレーベルからアメリカ進出を果たしたビートルズ。その過程には、多くの困難と偶然が絡み合っていました。このアルバムは、その初期の苦闘と、後の飛躍を予感させる重要な一歩を示す、歴史的価値の高い作品といえるでしょう。

収録曲

初版と再発版で収録曲が異なっているため、それぞれ詳細なリストが必要となります。また、各楽曲の作詞作曲者は、特記しない限りレノン＝マッカートニーです。

クレジット

ビートルズ: ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
外部ミュージシャン・スタッフ: ジョージ・マーティン（プロデューサー、ミキサー、編曲など）、アンディ・ホワイト（一部楽曲でのドラム演奏）

チャート成績・認定

再発盤は『ビルボード』誌アルバムチャートで9週連続2位を獲得。
2014年にアメリカレコード協会によってプラチナ認定。

参考文献

Spitz, Bob (2012) [2005]. The Beatles: The Biography
Spizer, Bruce (1998). Songs, Pictures and Stories of the Fabulous Beatles Records on Vee-Jay
Spizer, Bruce (2004). The Beatles Are Coming! The Birth of Beatlemania in America
Whitburn, Joel (2010). Joel Whitburn Presents Top Pop Albums, Seventh Edition

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