インドネシアの国章

インドネシアの国章：ガルーダ・パンチャシラ

インドネシアの国章は、「ガルーダ・パンチャシラ」として知られています。この国章は、胸に盾を抱え、足で巻物を持った金色の神鳥ガルーダを象徴としています。このガルーダが持つ盾に描かれた5つのエンブレムは、インドネシアの建国5原則であるパンチャシラをそれぞれ表しています。

この国章は、カリマンタン島のポンティアナックのスルタンであったハーミド2世によってデザインされ、1950年2月1日にインドネシアの国章として正式に制定されました。

神鳥ガルーダとインドネシアの深い繋がり

インド神話に登場する神鳥で、ヴィシュヌ神の乗り物であるガルダ（インドネシア語ではガルーダ）は、古代インドネシアの遺跡で数多く見られます。ジャワ島中部のプランバナン寺院群をはじめ、ペナタラン、ベラハン、スクーなどの寺院遺跡には、ガルーダの浮彫や彫像が今も残されています。プランバナン寺院群には、ヴィシュヌ神の寺院（チャンディ・ヴィシュヌ）のすぐ目の前にガルーダの寺院（チャンディ・ガルーダ）が建てられています。また、同じくプランバナンのシヴァ神の寺院（チャンディ・シヴァ）には、『ラーマーヤナ』の一場面、魔王ラーヴァナの手からジャナカ王の娘シーターを救い出そうとするガルーダの姿が描かれた浮彫を見ることができます。

ジャワ島のベハラン遺跡から発見されたクディリ王国のアイルランガ王の像は、ガルーダに乗るヴィシュヌ神として神格化された王の姿を表現しており、古代ジャワにおいてガルーダが広く知られていたことを示しています。

ガルーダは、インドネシア、特にジャワ島やバリ島の伝説や物語にも頻繁に登場します。これらの物語の中で、ガルーダは知識、力、勇気、忠誠、規律といった美徳を象徴するものとして描かれています。ヴィシュヌ神の乗り物であることから、宇宙の秩序を守るというヴィシュヌ神の属性も併せ持っています。バリ島の伝統においては、ガルーダは「すべての空飛ぶ生き物の王」「鳥たちの威厳ある王」として崇拝され、人間の体に鷹の頭、くちばし、翼、爪を備えた神聖な生き物として表現されます。バリ島では、このような姿のガルーダがヴィシュヌ神の乗り物となったり、蛇神ナーガと戦ったりする場面が、金色や鮮やかな色彩で彩られた精巧な彫像として作られています。

インドネシア社会において、イスラム教伝来以前からガルーダが持っていた重要性と神聖さは、インドネシアのシンボル、そして国のイデオロギーの象徴としてガルーダが尊重されることに繋がりました。インドネシアの国営航空会社も、ガルーダ・インドネシア航空という名前を冠しています。また、東南アジア各地でもガルダは崇拝されており、タイの国章にもガルダが使用されています。

紋章の詳細

国の標語

ガルーダが掴む巻物には、インドネシアの国の標語が記されています。古代ジャワ語の成句である「Bhinneka Tunggal Ika」は、「多様性の中の統一」という意味を持っています。

ガルーダ

ガルーダは、ヒンドゥー教と仏教の神話に共通して登場する金色の神鳥です。金の鷹の頭、くちばし、翼、脚、そして人間の腕と胴体を持つ姿で描かれ、南アジアや東南アジアで広く親しまれ、エンブレムとしても使用されています。ガルーダは、現在のインドネシアを構成する島々に領域を広げていた、植民地化以前のヒンドゥー教国家を想起させる存在でもあります。

しかし、国章のガルーダは、ジャワの寺院遺跡やバリ島の彫像、あるいはタイの国章に見られるような古典的な姿とは異なり、ジャワ島でも最も山深い森林に生息する絶滅危惧種の猛禽類、ジャワクマタカの姿から影響を受けています。ガルーダ・パンチャシラに見られるジャワクマタカの特徴は、頭部のとさか状の羽毛や、栗色を帯びた金色という体色です。このような特徴から、ジャワクマタカはインドネシアの国鳥ともされています。

国章の一部として、ガルーダは力強さと体力を象徴し、金色は偉大さと栄光を意味しています。

ガルーダの羽毛の数にも意味が込められています。左右の翼にはそれぞれ17枚の羽が描かれ、尾には8本の羽毛、尾の付け根には19枚の羽、首には45枚の羽があります。これらの数字を並べると「17/8/1945」となり、インドネシアが独立を宣言した1945年8月17日を表しています。

盾

盾は5つの部分に分かれており、中央には黒い小さな盾があります。その背後の大きな盾は十字線で4つに区切られ、インドネシアの国旗の色である赤と白に塗り分けられています。十字線のうち太い横線は、インドネシアの国土を横切る赤道を示しています。

盾の中のエンブレム

盾の中の5つの部分には、スカルノが提唱したパンチャシラの5つの原則を示すエンブレムがそれぞれ描かれています。

金色の星を描いた黒い盾：パンチャシラの最初の原則である「唯一神への信仰」を表します。黒は自然の色を表し、黄色い星はインドネシアの主要な宗教（イスラム教、ヒンドゥー教、仏教、キリスト教など）と社会主義を示します。この原則は、宗教を持つことの義務、一神教への義務を示唆するものとして、常に議論の対象となっています。
円形の鎖：パンチャシラの第二の原則である「公正で文化的な人道主義」を表します。四角い輪は男性、丸い輪は女性を意味し、人間の世代間の繋がりを示しています。
熱帯の樹ブリンギン：パンチャシラの第三の原則である「インドネシアの統一」を表します。地上に出た気根が地面を覆い、その上に枝が広がる様子は、多様な文化的根を持つ人々が1つの国にまとまるという理想を象徴しています。
ジャワ島の野牛バンテンの頭：パンチャシラの第四の原則である「合議制と代議制における英知に導かれた民主主義」を表します。バンテンは社会的動物であり、決定が合議によってなされることを象徴しています。また、スカルノの娘であるメガワティが率いるインドネシア闘争民主党のシンボルにもなっています。
金色の稲穂と白い綿花：パンチャシラの第五の原則である「全インドネシア国民に対する社会的公正」を表します。コメと綿花は、社会の持続と生計を象徴しています。

脚注

関連項目：インドネシアの国旗、スカルノ、ガルダ、パンチャシラ、国章の一覧

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