プランバナン寺院群

プランバナン寺院群：古代ジャワの壮麗なヒンドゥー寺院

プランバナン寺院群は、インドネシアのジャワ島中部に位置する、9世紀に建立されたヒンドゥー教寺院群です。この遺跡群は、中心となるプランバナン寺院（別名ロロ・ジョングラン寺院）をはじめ、数々の寺院や祠堂で構成されており、その歴史的・文化的な価値からユネスコの世界遺産に登録されています。

プランバナン寺院：ジャワ最大のヒンドゥー寺院

プランバナン寺院は、インドネシア最大のヒンドゥー教寺院であり、創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァの三神一体（トリムルティ）を祀っています。高さ47メートルの中央祠堂を中心に、ヒンドゥー教建築の特徴である高いピラミッド状の尖塔がそびえ立ち、その壮麗な姿は訪れる人々を魅了します。

歴史

プランバナン寺院の創建年代には諸説ありますが、8世紀末にヒンドゥー教を奉じるサンジャヤ王統によって着工されたとする説が有力です。その後、16世紀の大地震で多くの部分が崩壊し、忘れ去られていましたが、19世紀に再発見され、修復作業が進められました。この寺院は、仏教遺跡であるボロブドゥール寺院とともに、ジャワ建築の最高傑作の一つとされています。

創建と拡充

寺院の創建は、8世紀末に大乗仏教を奉じるシャイレーンドラ朝と並行して、ヒンドゥー教のサンジャヤ王統によって始まったとする説があります。碑文によると、9世紀中頃には最初の建造物が完成しており、サンジャヤ王統の王ラカイ・ピカタンが関与したと考えられています。マタラム王統がシャイレーンドラ朝から自立したことを象徴する記念物として、巨大なヒンドゥー教寺院が建設されたとされています。寺院は、歴代のマタラム王によって拡張され、数百基の小祠堂が追加されました。王国の最盛期には、寺院の外壁内に多くのバラモンが住んでいたと推定されています。

荒廃と再発見

10世紀前半に都が東ジャワに移されると、プランバナン寺院群は衰退し、見捨てられていきました。1600年頃の大地震によってさらに崩壊が進みましたが、その遺構は地元のジャワ人に知られていました。寺院に関する伝説は、ロロ・ジョングランの物語として語り継がれました。1733年、オランダ東インド会社のロンスによってその存在が報告され、19世紀初頭にイギリスの調査員マッケンジーによって詳細な調査が開始されました。

修復

20世紀に入り、本格的な修復作業が開始されました。オランダ植民地政府による修復作業は、第二次世界大戦中に中断されましたが、インドネシア独立後も継続され、1953年に中央のシヴァ祠堂が完成しました。その後もブラフマー祠堂、ヴィシュヌ祠堂、ヴァーハナ祠堂などが修復され、現在も修復作業が続けられています。

ジャワ島中部地震の影響

2006年のジャワ島中部地震では、プランバナン寺院も大きな被害を受けました。祠堂の一部が落下したり、石積みが亀裂したりするなどの損傷が見られましたが、その後、日本からの調査団の協力も得て修復作業が進められました。

保護区の設定

2012年、プランバナンとその周辺地域は保護区に設定され、新たな建築物の建設が制限されました。この地域は、古代の寺院群が集中する重要な場所であり、文化遺産としての保護が求められています。

催事と式典

プランバナンでは、伝統的な叙事詩『ラーマーヤナ』の舞踏が上演されています。また、ヒンドゥー教の礼拝や儀式も再興し、ガルンガン、タウール・クサンガ、ニュピなどの祝祭が毎年行われています。2019年には、寺院の祓いと浄化を目的としたアビシェーカという宗教的儀式が1163年ぶりに開催されました。

寺苑と祠堂群

プランバナン寺院には、かつて240基もの祠堂が立ち並んでいました。寺院複合体は、内苑、中苑、外苑の三重構造で構成されており、最も神聖な内苑には、トリムルティ（三神一体）の祠堂、ヴァーハナ祠堂、アピット祠堂、クリル祠堂、パトック祠堂などがあります。また、中苑には224基のプルワラ小祠堂がありました。現在では、内苑の主要な祠堂は修復されていますが、プルワラ小祠堂の多くは崩壊したままです。

シヴァ祠堂

プランバナン寺院の中心となるシヴァ祠堂は、高さ47メートルを誇る、複合体で最も高く壮大な建造物です。祠堂内には、シヴァ・マハーデーヴァ像が安置されており、そのほかにもアガスティヤ、ガネーシャ、ドゥルガーの像が祀られています。

ブラフマー祠堂とヴィシュヌ祠堂

シヴァ祠堂の南側にはブラフマー祠堂、北側にはヴィシュヌ祠堂があります。それぞれブラフマーとヴィシュヌの像が安置され、シヴァ祠堂と同様に東向きに建てられています。

ヴァーハナ祠堂

主要な3つの祠堂の前には、それぞれの神の乗り物（ヴァーハナ）であるナンディ（シヴァの牡牛）、ガルーダ（ヴィシュヌの神鳥）、ハンサ（ブラフマーの白鳥）を祀る祠堂があります。

アピット祠堂、クリル祠堂、パトック祠堂

内苑には、アピット祠堂、クリル祠堂、パトック祠堂といった小祠堂も存在し、内苑の構成を形成しています。

プルワラ祠堂

中苑には、同心円状に配置された224基のプルワラ小祠堂があります。これらの祠堂は、主要な祠堂を補完する役割を果たしていたと考えられています。

構造：ヒンドゥー宇宙観の反映

プランバナン寺院の建築様式は、ヒンドゥー教の宇宙観に基づいています。寺院は、聖なる山であるメール山を模して設計され、下からブルロカ（欲界）、ブヴァルロカ（色界）、スヴァロカ（無色界）の三界を象徴しています。

プランバナンの浮彫り

プランバナン寺院の回廊には、『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』の物語を描いた浮彫りが施されています。これらの浮彫りは、寺院を訪れる人々に古代の物語を伝えています。

ロロ・ジョングラン伝説

プランバナンには、ロロ・ジョングランの伝説が語り継がれています。この伝説は、近隣のセウ寺院や、ドゥルガー像の由来にも関係しています。伝説では、王女ロロ・ジョングランが、一夜で千の寺院を建てるという条件をバンドゥン・ボンドウォソに課し、最終的に石に変えられたとされています。

プランバナン周辺の寺院・遺跡

プランバナン周辺には、多くの寺院や遺跡が点在しています。ルンブン寺院、ブブラ寺院、セウ寺院といった仏教寺院や、ラトゥボコ遺跡群などがあります。これらの遺跡は、この地域が古代に重要な宗教的、政治的中心地であったことを示しています。

北側の寺院

プランバナンの北側には、ルンブン寺院、ブブラ寺院、セウ寺院、プラオサン寺院などがあります。セウ寺院は、プランバナンよりも古い仏教寺院であり、その規模はボロブドゥール寺院に次いで大きいとされています。

南側の寺院と遺跡

プランバナンの南側には、サジワン寺院、ラトゥボコ遺跡、バロン寺院などがあります。ラトゥボコは、王宮の跡であると考えられており、丘の上に遺跡が残っています。

西側の寺院

プランバナンの西側には、カラサン寺院、サリ寺院、サンビサリ寺院などがあります。これらの寺院は、それぞれ異なる建築様式と歴史的背景を持っています。

世界遺産登録基準

プランバナン寺院群は、以下の基準を満たし、世界遺産に登録されました。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作であること。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例であること。

まとめ

プランバナン寺院群は、インドネシアの古代史、文化、宗教を語る上で非常に重要な遺跡です。その壮大な建築、歴史、そして伝説は、訪れるすべての人々を魅了します。この寺院群は、古代ジャワの輝かしい遺産として、これからも大切に保存されていくでしょう。

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