インド門 (ムンバイ)

ムンバイのインド門（Gateway of India）は、かつてイギリス領インド帝国の時代に、インドの主要な港湾都市であったムンバイ（旧ボンベイ）に建設された歴史的な記念建造物です。アラビア海に面した南ムンバイのアポロ・バンダル地区に位置し、ムンバイ港の海岸線沿いのチャトラパティ・シヴァージー・マーグの終点にあたります。元々は漁村の簡素な桟橋があった場所に、後に改修を経てイギリス人総督やその他の高官が上陸する地点として使われるようになりました。特に、船でムンバイに到着する人々にとって、このインド門が最初に目にする堂々たる建造物であり、インドへの公式な玄関口として機能しました。

ムンバイのインド門は、ムンバイのタージ・マハルとも呼ばれるほど象徴的な存在であり、市内でも最も多くの観光客が訪れる場所の一つとなっています。

建設の経緯

この記念建造物の建設は、1911年12月にデリーで開催された国民会議（デリー・ダルバール）に先立ち、当時のイギリス国王ジョージ5世とメアリー王妃がムンバイを訪問したことを記念して計画されました。国王夫妻はアポロ・バンダルに上陸しましたが、実際に建設が開始されたのは1915年になってからだったため、彼らが目にしたのは厚紙製の仮設構造物であったと言われています。建造物の礎石は、1911年3月31日に当時のボンベイ知事ジョージ・シデナム・クラークによって敷かれました。建築家ジョージ・ウィテットによる最終設計案が承認されたのは1913年3月31日です。

インド門が建つアポロ・バンダル一帯の港湾整備は、1915年から1919年にかけて行われ、新しい海岸壁が造られました。造成工事は1920年に完了し、インド門自体の建設は1924年に竣工しました。完成後、インド門は1924年12月4日に、当時の副王であった初代レディング伯爵ルーファス・アイザックスによって正式に開門されました。

設計と構造

インド門の建築様式は、インド・サラセン様式として知られ、建築家ジョージ・ウィテットによって設計されました。この様式は、古代ローマの凱旋門を思わせる構造と、16世紀のグジャラート地方の建築様式が融合したものです。具体的には、アーチ部分はイスラム建築の要素を取り入れ、装飾にはヒンドゥー建築の要素が用いられています。

建材としては、主に地元の採石場から供給された黄色い玄武岩と鉄筋コンクリートが使用されています。装飾に使われた有孔スクリーンは、グワーリヤルから調達されました。インド門は高さ26メートル（85フィート）の堂々たるアーチ構造を持ち、中央ドームは幅15メートル（49フィート）、最高点は地上から25メートル（82フィート）に達します。門の両側には、それぞれ最大600人を収容できる広いホールが設けられています。建築にかかった費用は210万インド・ルピー（当時の約3万2000ドル）で、その大部分はインド政府によって負担されました。資金的な制約から、当初計画されていた上陸路は実現せず、インド門は海岸通りの終点に位置する形となりました。

歴史的な意義と現在の姿

インド門は、イギリス統治時代において、副王やボンベイ知事を含むイギリスの高官がインドへ入国する際の公式な上陸地点として使われました。ジョージ5世の訪問を記念して建てられて以降、英領インドおよびイギリス帝国の重要な行事の際に利用されました。現代においては、イギリス帝国の「権力と威厳」を象徴する建造物として、また植民地支配の「歴史的遺産」として認識されることもあります。特に、1948年2月28日には、インド独立に伴いインドから撤退する最後のイギリス陸軍部隊であるサマセット軽歩兵連隊第1大隊が、このインド門を通り抜けて帰国の途に就き、イギリス統治の終焉を象徴する歴史的な場面となりました。

インド門の目の前には、17世紀にゲリラ戦を駆使してマラーター王国を建国した英雄、チャトラパティ・シヴァージー大王の像が建立されています。この像はマラータ族の「誇りと勇気」の象徴であり、1961年1月26日のインド共和国記念日に除幕されました。周辺地域には、著名なインドの宗教家であるスワーミー・ヴィヴェーカーナンダの像も設置されています。

現在、インド門周辺には5つの桟橋があります。これらの桟橋は、原子力研究センター関係者専用、商用フェリー、ロイヤル・ボンベイ・ヨットクラブ専用など、それぞれ異なる用途で利用されています。第2および第3桟橋は、特に人気の高いエレファンタ石窟群へのフェリーツアーの出発地点となっています。この他にも、アリバーグやマンダバといった近郊の目的地へ向かうフェリーもここから運航しています。これらのフェリーは非常に人気があり、しばしば定員を超過して乗客を乗せているとの指摘もあります。

インド門広場は、現在、ムンバイを代表する主要な観光地であるとともに、地元の人々にとっても親しまれている集会場所です。広場では、風船売りや写真家が観光客にサービスを提供する姿が見られます。マハーラーシュトラ州観光局は、収容能力の面から、長年エレファンタ石窟群で開催されてきた音楽と舞踊の祭典「エレファンタ・フェスティバル」の会場を、2012年にインド門へ変更することを決定しました。これにより、従来の700人から800人程度の収容能力に対し、インド門では2000人から2500人もの観客を集めることが可能となりました。

テロ攻撃との関連

21世紀に入ってから、インド門は複数回のテロ攻撃の標的、あるいは関連地となっています。2003年には、インド門の近くでタクシーに仕掛けられた爆弾が爆発する事件が発生しました。また、2003年8月の爆弾テロの標的の一つとなりました。そして、2008年11月に発生したムンバイ同時多発テロにおいては、タージマハル・ホテルを襲撃した武装テロリストたちが、このインド門近くを上陸地点として利用したことが知られています。これらのテロ攻撃を受けて、現在、インド門周辺エリアにおける一般の立ち入りや移動には一部制限が設けられています。

ムンバイのインド門は、過去の栄光と権威、歴史的な節目、そして現代の賑わい、さらにはテロの記憶といった、様々な側面を持つ象徴的な建造物として、今日もムンバイの海岸に立ち続けています。

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