イヴリーの戦いの後にパリへ凱旋するアンリ4世

ピーテル・パウル・ルーベンス「イヴリーの戦いの後にパリへ凱旋するアンリ4世」

この作品は、フランドルのバロック期の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスによって1627年に描かれた油彩画です。メディチ家出身のマリー・ド・メディシスが、夫であるフランス王アンリ4世の輝かしい業績を称えるために依頼しました。

作品の概要

本作は、『イヴリーの戦いにおけるアンリ4世』と対をなす作品として制作されました。両作品は、1686年にコジモ3世によって購入され、1773年以降はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

作品の来歴

これらの絵画は、元々アントウェルペンの司教座聖堂参事会員フレデリク・ランスロットのコレクションにありました。1686年2月、コジモ3世の秘書官アッポローニオ・パッセッティが、この2枚の絵画の鑑定を指示されました。1687年1月にフィレンツェに到着後、輸送による損傷を修復。コジモ3世はメディチ家の歴史を讃えるため、1773年までピッティ宮殿に飾られました。

連作の一部としての位置づけ

本作と『イヴリーの戦いにおけるアンリ4世』は、ルーブル美術館に所蔵されている『マリー・ド・メディシスの生涯』の連作の対作品として企画されました。当初はリュクサンブール宮殿を飾るために計画されましたが、マリーと対立し、彼女をブロア城に幽閉した枢機卿リシュリューの反対により、この連作は完成に至りませんでした。ルーベンスは、この件について「これまでに費やした労力はすべて無に帰した」と述べています。実際に制作されたのは6点のみで、ウフィツィ美術館の2作品の他に、『パリ近郊をめぐる戦い』、『アルクの戦いでのアンリ4世』、『カーンの包囲』が現存しています。残りの1点は失われています。

作品の図像的源泉

ルーベンスは、イタリア滞在中に得た図像的源泉を本作に活用しています。特に、古代ローマの『マルクス・アウレリウス帝の凱旋』やマンテーニャの『カエサルの凱旋』との関連性が指摘されています。これらの作品から、凱旋の場面における構成や表現方法を学び、自身の作品に昇華させたと見られます。

油彩スケッチ

本作のための油彩スケッチが、ロンドンのウォレス・コレクション、バイヨンヌのボナ美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。

まとめ

「イヴリーの戦いの後にパリへ凱旋するアンリ4世」は、ルーベンスの卓越した技術と、歴史的背景が融合した壮大な作品です。マリー・ド・メディシスの依頼により、アンリ4世の栄光を称えるために描かれましたが、政治的な背景により連作が完成しなかったという歴史的な経緯も持っています。ルーベンスが過去の巨匠たちの作品から学び、自身の芸術に取り入れた過程を知ることができる点でも、非常に価値のある作品と言えるでしょう。

この作品は、ルーベンスの創造性と、バロック美術の華やかさを現代に伝える貴重な遺産です。ウフィツィ美術館を訪れる際には、ぜひとも鑑賞していただきたい作品の一つです。

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