ウィラポン・ナコンルアンプロモーション

タイ王国が生んだ伝説的な格闘家、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション（本名：ティーラポン・サーラーングラーン、1968年 11月16日生）は、ムエタイとプロボクシングの二つの世界で輝かしい足跡を残しました。ナコーンラーチャシーマー県に生まれ、サラブリー県で育った彼のキャリアは、まずムエタイのリングから始まりました。表情を変えずに強打を繰り出す姿から「デスマスク」の異名で恐れられましたが、タイ国内での親しいニックネームは「ポン」です。なお、「ナコンルアンプロモーション」という名前は、彼の活動を支援した映画会社の名称に由来しています。

ムエタイでの栄光とボクシングへの挑戦

ムエタイ選手として、ウィラポンはジュニアフライ級、フライ級、ジュニアバンタム級という三つの階級で、権威あるラジャダムナン・スタジアム認定タイトルを獲得する快挙を成し遂げました。ムエタイでの確固たる実績を背景に、彼は国際式ボクシングへの転向を決意します。1994年12月5日、タイのノンタブリー県でプロボクサーとしてのキャリアをスタートさせました。

デビュー戦となったジョエル・フニオ（フィリピン）戦では、3回TKO勝利を飾り、同時にWBCインターナショナルスーパーフライ級王座を獲得しました。その翌年3月には、このタイトルの初防衛にも成功しています。そして、プロボクシング転向からわずか4戦目という異例の早さで、世界初挑戦の機会を得ました。1995年9月17日に行われた同国人のダオルン・チュワタナとの対戦では、ジャッジ二人がウィラポンを支持し、スプリットデシジョンによる僅差の判定勝利を収め、WBA世界バンタム級王座を獲得しました。これは、センサク・ムアンスリンに並ぶ、当時史上2番目に早い世界王座奪取記録でした。

しかし、WBA王座は短命に終わります。1996年1月28日、初防衛戦で元WBC世界スーパーフライ級王者ナナ・コナドゥ（ガーナ）と対戦。初回にダウンを奪う優位に立ちながらも、2回にコナドゥの反撃を受け、カウンターでキャンバスに沈みました。懸命に立ち上がるも、レフェリーストップにより2回TKO負けを喫し、わずか4ヶ月で王座を失いました。

WBC長期政権と日本との激闘

WBA王座陥落後、ウィラポンは再び世界の頂点を目指すため、およそ3年間にわたりノンタイトル戦でキャリアを重ねました。この間、タイトル戦こそありませんでしたが、16連勝（11KO）を記録し、再び世界へ挑む勢いをつけました。

1998年12月29日、ついに日本のリングに初登場。大阪市中央体育館でWBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎に挑戦しました。この試合で6回KO勝利を収め、再び世界王者に返り咲きました。これが、彼の長く輝かしいWBCバンタム級王座の歴史の始まりとなります。

1999年5月21日にはタイでの初防衛戦でマウロ・ブランコ（ウルグアイ）を5回KOで退け、初防衛に成功。同年8月29日には、大阪ドームで辰吉丈一郎と再戦。この試合でも序盤から圧倒的な強さを見せつけ、7回TKOで前王者を返り討ちにしました。

ウィラポンのキャリアにおいて、日本のボクサーは特に重要な存在でした。辰吉丈一郎に加えて、当時日本ボクシング界のホープと目されていた西岡利晃とは、合計4度も拳を交えました。2000年6月25日の初対戦では判定勝ち。その後も対戦を重ね、2001年9月1日には引き分け、2003年10月4日にも挑戦者有利とも見られる判定で引き分けとなりましたが、2004年3月6日の4度目の対戦では判定で勝利しています。これら辰吉、西岡との激闘を含め、ウィラポンは実に14度にわたってWBC世界バンタム級王座を防衛。これは、バンタム級における最多防衛記録を持つオルランド・カニザレスに次ぐ歴代2位タイの記録です。これらの活躍から、彼は長く「日本ボクシング界の宿敵」として日本のファンに記憶されました。

王座陥落とその後のキャリア

6年3ヶ月以上という長期にわたり王座を保持し続けたウィラポンでしたが、2005年4月16日に行われた15度目の防衛戦で、日本の長谷川穂積に12回判定負けを喫し、ついに王座を明け渡しました。

王座陥落後も、ウィラポンはノンタイトル戦で5連勝（4KO）を飾り、再び世界王座を目指しました。2006年3月25日には、ワールド記念ホールで長谷川穂積との再戦が実現。序盤は長谷川のスピードに苦戦するも、必死の反撃を見せましたが、9回開始直後にカウンターの右フックを受けダウン。レフェリーストップにより自身2度目のKO負けを喫しました。これが彼の日本での最後の試合となりました。

長谷川戦後、一度は引退も囁かれましたが、現役続行を選択。タイ国内で試合を続け、ABCOバンタム級王座を獲得するなど、再び世界ランキングを上昇させ、WBCバンタム級1位にまで返り咲きました。しかし、2008年6月12日、挑戦者決定戦でヴィシー・マリンガ（南アフリカ）に4回TKO負け。年齢による衰えも隠せず、この試合を最後に現役引退を表明しました。

引退後の活動

引退後は、後進の育成に力を注ぎ、トレーナーとしてスリヤン・ソー・ルンヴィサイなど、後に世界王者となる選手を指導しました。しかし、2009年3月に突如現役復帰を発表し、国内で数試合を行いました。2010年4月23日のビッキー・タフミル戦での勝利を最後に、プロボクサーとしてのキャリアに完全に終止符を打ちました。将来的には自身のジムを開設する希望を持っているそうですが、現在はレストラン経営を手掛けており、好評を得ているとのことです。

厳格な自己管理と日々の鍛錬を怠らない姿勢は、多くのボクサーの模範とされました。世界チャンピオンとなってからも、ジムの隣の質素な一間に家族や多くの練習生と共に暮らし、その人間性も称えられました。

プロボクシング戦績

72戦 66勝（47KO）4敗 2分

主な獲得タイトル

ムエタイ
ラジャダムナン・スタジアム認定ジュニアフライ級王座
ラジャダムナン・スタジアム認定フライ級王座
ラジャダムナン・スタジアム認定ジュニアバンタム級王座
ボクシング
WBCインターナショナルスーパーフライ級王座
WBA世界バンタム級王座
WBC世界バンタム級王座
* ABCOバンタム級王座

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