ウィリアム・クリスティ

ウィリアム・リンカーン・クリスティは、1944年12月19日にアメリカ合衆国ニューヨーク州バッファローで生まれました。建築家を父に持ち、幼少期から音楽に親しむ環境で育ちました。母親が指揮する声楽アンサンブルに参加したほか、両親からピアノと歌を習いました。祖母の影響でフランスのバロック音楽に興味を持ち、フランソワ・クープランのオルガン作品との出会いがそのきっかけとなりました。

幼少期には家族でヨーロッパを旅行した経験も持ち、当初は医師を目指していましたが、美術への関心が高まり、ハーバード大学で美術史を専攻しました。しかし、チェンバロへの情熱は消えることなく、イェール大学でラルフ・カークパトリックやケネス・ギルバートに師事し、チェンバロ奏者としての道を歩み始めます。ベトナム戦争の影響で軍役を一時的に経験しますが、その後、ダートマス大学で教鞭をとる機会を得ます。しかし、ケント州立大学銃撃事件をきっかけに、音楽の道へ進むことを決意し、ユネスコ音楽大使の推薦でアメリカを離れ、BBC交響楽団に入団しました。

1970年代には活動拠点をヨーロッパに移し、ルネ・ヤーコプスのコンチェルト・ヴォーカレで通奏低音奏者として活躍しました。1979年には、フランスで古楽アンサンブル「レザール・フロリサン」を創設し、それまであまり上演されることのなかったフランス・バロックオペラの復興に尽力しました。クリスティの音楽的アプローチは、作品の原典に忠実でありながらも、生き生きとした表現力に満ち溢れています。ヘンデルやモーツァルトなど、フランス・バロック以外の作品もレパートリーに取り入れ、その音楽的才能を幅広く発揮しています。

教育者としての活動も活発で、1982年から1995年までパリ音楽院で教鞭を執り、マスタークラスやアカデミーで指導にあたっています。2002年には、カーンに若手歌手のためのアカデミー「Jardin des Voix」を創設し、次世代の古楽演奏家育成にも力を注いでいます。2007年からはジュリアード音楽院と提携し、古楽器演奏のマスタークラスを提供しており、その教育的功績は非常に大きいと言えるでしょう。

クリスティの演奏レパートリーは、フランス・バロック音楽を中心としながらも、ヘンリー・パーセル、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトなど、幅広い作曲家の作品を網羅しています。グラインドボーン音楽祭、チューリッヒ歌劇場、リヨン国立歌劇場など、世界各地の著名な歌劇場で客演指揮を務めたほか、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のような現代オーケストラとの共演も行っています。その活動は、古楽の分野にとどまらず、現代音楽にも影響を与えています。

クリスティは、フランスのエラートやハルモニア・ムンディなどのレーベルから多数の録音をリリースしており、その演奏は世界中で高く評価されています。彼の音楽への情熱と知識、そして卓越した演奏技術は、多くの人々を魅了し続けています。クリスティは、単なる古楽演奏家にとどまらず、音楽史における重要な人物の一人として、その名を刻んでいます。

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