ウィリアム・ゴドウィン

ウィリアム・ゴドウィン：功利主義と無政府主義の思想家

ウィリアム・ゴドウィン（1756年～1836年）は、18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したイギリスの政治評論家、著作家です。近代無政府主義の重要な先駆者であり、功利主義の初期の提唱者としても知られています。彼の思想は、後のイギリス文学や文化に大きな影響を与えました。

ゴドウィンは、カルヴァン派の牧師の息子としてイングランドで生まれました。当初は牧師として活動していましたが、フランス啓蒙思想に触れたことで信仰に疑問を抱き、ロンドンに出て牧師を辞め、文筆家としての道を歩み始めます。百科全書派の思想をイギリスに紹介するなど、ジャーナリストとしても活躍しました。

彼の初期の著作には小説などもありましたが、現在では忘れられています。転機となったのは、1793年に発表された『政治的正義に関する論考と、一般的美徳や幸福へのその影響』（Enquiry concerning Political Justice, and its Influence on General Virtue and Happiness）です。この著作は、当時としては非常に高価な専門書として出版されましたが、労働者階級の人々も資金を出し合って購入し、広く読まれました。

『政治的正義』は、政府のない社会や富の平等な分配などを主張する内容で、当時の社会に大きな衝撃を与えました。この著作は、ミルトン、ロック、ルソーといった哲学者たちの著作と並ぶ高い評価を得、若き詩人たちにも大きな影響を与えました。しかし、政府への批判的な内容であったため、当局から検閲を受け、ゴドウィン自身も政府や財産への批判を和らげる必要に迫られました。

ゴドウィンは、小説『ケイレブ・ウィリアムズ』（Things As They Are; or The Adventures of Caleb Williams）も発表しました。これは社会派サスペンス小説の古典と評価されています。

私生活においては、女性解放論者として有名なメアリ・ウルストンクラフトと結婚しました。2人は結婚制度に反対する立場でしたが、娘メアリ・シェリー（小説『フランケンシュタイン』の作者）をもうけたため、結婚生活を送りました。しかし、メアリ・ウルストンクラフトは出産後に亡くなってしまいます。ゴドウィンはその後、メアリ・ジェーン・クレアモントと再婚し、出版業を営みましたが、事業は失敗に終わりました。

晩年は貧困の中で過ごし、息子をコレラで亡くすなど、悲劇的な出来事も経験しました。彼の娘であるメアリ・シェリーが、晩年のゴドウィンの世話をしたと言われています。

ゴドウィンの思想は、彼のカルヴァン派の牧師としての経歴と、フランス啓蒙思想への関与という二つの要素から理解することができます。彼は、神の王国を倫理的な共産主義と捉え、政府の権力と暴力は正義や幸福を阻害すると主張しました。理性と説得によって社会の同意を得ることを理想としましたが、「貧困」の問題についてはあまり重要視せず、個人の知性と道徳の進歩を重視する思想を持っていました。この思想は、マルサスの『人口論』によって批判されました。

ゴドウィンは、数々の著作を残し、その思想は現代社会にも影響を与え続けています。彼の著作は、現在でも翻訳され、研究され続けているのです。彼の生涯と業績は、18世紀から19世紀にかけての社会思想史を考える上で、非常に重要なものです。 ゴドウィンの多様な著作群は、彼の政治思想、小説、教育論、そして私生活における出来事を通して、彼の複雑で多面的な人物像を明らかにしています。彼の著作は、現代社会のさまざまな問題を考える上で、依然として示唆に富む内容となっています。多くの日本語訳が出版されており、現代でも彼の思想に触れることが可能です。

もう一度検索