ウィリアム・マーシャル (初代ペンブルック伯)

ウィリアム・マーシャル：騎士の鑑、そして政治家

ウィリアム・マーシャル（William Marshall, 1136年頃/1144年頃 - 1219年5月14日）は、中世イングランドにおいて、騎士として、そして政治家として傑出した足跡を残した人物です。プランタジネット朝の激動期を生き抜き、その名声はイングランドのみならず、ヨーロッパ中に轟きました。

生い立ちと少年期

ウィリアムは、ウィルトシャーの小規模な地主の家に生まれました。父ジョンは、イングランド王室の厩舎長官である「アール・マーシャル（軍務伯）」の役職を世襲し、その職名が姓となりました。ウィリアムは、ジョンとソールズベリー伯の妹シビルの間に生まれた次男でした。

少年時代、ウィリアムは父に人質として敵陣に送られるという経験をしました。父はウィリアムの命を軽んじるような発言をしたとされますが、結果的にウィリアムは命を奪われることなく、両親のもとに帰還しました。しかし、次男であったウィリアムは、家督を継ぐことができず、自らの力で道を切り開く必要がありました。

遍歴の騎士時代

12歳頃、ウィリアムは騎士となるべく、ノルマンディーのタンカルヴィル城に送られ、厳しい訓練を受けました。1164年頃に騎士に叙任されたウィリアムは、その武勇を発揮し、数々の馬上槍試合（トーナメント）で勝利を収め、名声を高めていきました。

トーナメントでの活躍は目覚ましく、多くの戦利品と身代金を得て財産を築き上げました。しかし、ウィリアムは単なる強者ではなく、その勇猛さだけでなく、騎士道精神に厚く、人々から敬愛されました。彼は、一時の感情に左右されず、常に冷静な判断を下すことができる人物でした。

その後、母方の伯父のソールズベリー伯に仕えましたが、伯父が戦死すると、ウィリアムは捕虜となりました。しかし、彼の武勇を惜しんだアリエノール・ダキテーヌ（当時のイングランド王妃）の尽力によって釈放され、その後の人生を大きく変えることになります。

イングランド王家への仕官

アリエノールの推薦により、ウィリアムは若ヘンリー王の騎士道教師に任命されました。その後、若ヘンリー王の反乱にも関わることになりますが、その後の和解に尽力しました。

若ヘンリー王の死後、ウィリアムは十字軍に参加し、聖地での戦いを経験しました。帰国後、ヘンリー2世に仕え、その助言者として重用されました。特にヘンリー2世の息子リチャード（後のリチャード1世）との関係は複雑で、時には敵対し、時には協力しあいました。

リチャード1世の治世下では、ウィリアムはペンブルック伯に任じられ、広大な領土と権力を手に入れました。また、リチャード1世の十字軍遠征中には摂政として国政を担うなど、その政治手腕も発揮しました。

ジョン王の治世期

リチャード1世の死後、ウィリアムはジョン王の即位を支持しましたが、やがてジョンの暴政に不満を抱き、マグナ・カルタの制定にも関わることになります。第一次バロン戦争では、ジョン王に忠誠を尽くし、その死後、幼いヘンリー3世の摂政として、国政を主導しました。

イングランドの摂政

ウィリアムは、老齢にも関わらず、幼いヘンリー3世を支え、フランス王太子ルイの侵攻に対抗しました。リンカーンの戦いでは、自ら先頭に立って戦い、勝利に貢献しました。また、反乱を起こした貴族たちにも寛容な態度で接し、和解を促しました。ウィリアムの誠実な人柄と卓越した政治力によって、イングランドは危機を脱することができました。

死と遺産

1219年、ウィリアムは75歳または83歳でその生涯を閉じました。死の直前には、テンプル[[騎士団]]に入団するという、かつての誓いを果たしました。彼の遺体は、ロンドンのテンプル教会に埋葬されました。

ウィリアムの死後、彼の息子によって『ウィリアム・マーシャル伝』が編纂されました。この書物は、ウィリアムの生涯を現代に伝える貴重な史料となっています。

ウィリアム・マーシャルは、その武勇と騎士道精神、そして政治手腕によって、中世イングランドにおいて特別な存在となりました。その名は、今日においても、騎士の鑑として、また偉大な政治家として、歴史に刻まれています。

子女

イザベル・ド・クレアとの結婚で10人の子供を儲けました。

ウィリアム（1190年 - 1231年） - 第2代ペンブルック伯
リチャード（1191年 - 1234年） - 第3代ペンブルック伯
モード（1192年 - 1248年） - ノーフォーク伯ヒュー・ビゴッドと結婚、サリー伯ウィリアム・ド・ワーレンと再婚。
ギルバート（1194年 - 1241年） - 第4代ペンブルック伯
ウォルター（1196年 - 1245年） - 第5代ペンブルック伯
アンセルム（1198年 - 1245年） - 第6代ペンブルック伯
イザベル（1200年 - 1240年） - ハートフォード伯兼グロスター伯ギルバート・ド・クレアと結婚、コーンウォール伯リチャードと再婚。スコットランド王ロバート1世の曾祖母。
シビル（1202年 - 1234年） - ダービー伯ウィリアム・ド・フェラーズと結婚。
ジョアン（1203年 - 1246年） - スワンスコンブの領主ワリンと結婚。
エバ（1203年 - 1246年） - アバガヴェニーの領主ウィリアムと結婚。マーチ伯ロジャー・モーティマーの曾祖母、子孫にエドワード4世、アン・ブーリンやジェーン・シーモアがいる。

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