馬上槍試合

中世ヨーロッパを席巻した馬上槍試合：栄光と衰退の物語

中世からルネサンス期（12世紀～16世紀）にかけて、西欧世界で広く行われた馬上槍試合は、騎士たちの武勇と技量を競う壮大な競技会、あるいは模擬戦争でした。華麗な武具を身につけ、馬上で繰り広げられる迫力ある戦闘は、観る者だけでなく参加者をも魅了した一大イベントでした。

馬上槍試合には、複数の騎士がチームを組んで突撃する「トゥルネイ」と、1対1で戦う「ジョスト」という主要な種目がありました。他にも、様々な形式の競技会が存在し、それらは総じて「馬上槍試合」と呼ばれていましたが、本稿ではそれぞれの用語を用いて区別します。使用される武器は槍に限らず、剣やその他の武器も用いられ、徒歩での戦闘も含まれる場合がありました。

上馬上槍試合の定義と起源

歴史家のデュ・カンジュが編纂した中世用語集には、馬上槍試合の定義が複数記載されています。中でも、ロジャー・ホーヴェデンの定義「敵対心からではなく、実技の練習と勇敢さの披露のために行われる軍事演習」が最も適切と言えるでしょう。

初期の馬上槍試合は、実際の戦闘とほとんど変わりありませんでした。敗れた相手から武具や馬を奪い、捕虜にして身代金を要求することもありました。12～13世紀には、キリスト教徒同士の戦争において、平地で正面から戦うことが美徳とされていたため、戦争そのものが馬上槍試合に近い様相を呈していたと言えるほどです。

馬上槍試合の起源については諸説ありますが、古代ローマの剣闘士試合における騎馬闘士の戦闘にそのルーツを見出すことができます。ヨーロッパにおいて「トーナメント」という名称が登場するのは11世紀のことです。中世の人々は、独自の起源伝説を作り上げており、11世紀末の年代記には、1066年に没したアンジューの貴族が馬上槍試合の創始者とされる記述があります。16世紀の文献では、ハインリヒ捕鳥王が馬上槍試合に関する法を制定したとされています。

しかし、文献に「トーナメント」という言葉が最初に現れるのは、1114年にエノー伯ボードゥアン3世が平和条例の中で使用した時です。この条例は、争いを避けるために「平和の維持者」が馬上槍試合のような競技を行うべきだと述べています。

最も古い馬上槍試合の記録は、1095年にブラバント伯ハインリヒ3世が競技中に事故死したという記述です。北フランスでは定期的に馬上槍試合が開かれており、その盛況ぶりは複数の史料から裏付けられています。1160年代の史料からは、既に現代と変わらない競技へと発展していたことがわかります。

トーナメントの方式と人気

馬上槍試合の中心は、騎士たちが2つのグループに分かれて突撃する「トゥルネイ」でした。「ジョスト」は同時に行われることもありましたが、主要競技ではありませんでした。

標準的な馬上槍試合の形式は、12世紀後半の史料に詳細に記述されています。四旬節を除き、年間を通して開催され、競技場は通常2週間前に発表されました。最も有名な競技場はフランス北東部にあり、トーナメントシーズンにはヨーロッパ中から何百人もの騎士が集まりました。

前日には宴会が開かれ、前夜祭として「ジョスト」が行われました。当日は、両陣営の行進の後、個人による「ジョスト」が行われ、その後、騎士たちは突撃の隊列を組み、ヘラルドの合図で突撃を開始します。落馬せずに残った騎士は素早く方向転換し、次の相手を選びます。競技は乱戦となり、両陣営が疲弊するか、日が暮れるまで続きます。

馬上槍試合は非常に人気があり、イングランド、フランス、ドイツ、スコットランドなど、ヨーロッパ各地で盛んに行われました。1179年には、3000人もの騎士が参加した大会の記録も残っています。

禁止令と衰退

馬上槍試合の人気の高まりとともに、国王や教会による禁止令が出されるようになりました。教会は、貴族たちが馬上槍試合に熱中するあまり、十字軍やレコンキスタといった重要な戦争をおろそかにすると懸念しました。イングランドでは、ヘンリー2世が公的な秩序維持の観点から禁止令を出しました。

しかし、禁止令にもかかわらず、馬上槍試合は各地で続けられ、イングランドではリチャード1世によって開催許可地が定められ、開催許可料が徴収されるようになりました。しかし、その後も禁止令は断続的に出され、人気は徐々に低下していきました。フランスでは、ルイ9世が王領での開催を禁止し、その禁令はその後も続きました。

その他の類似の競技

馬上槍試合以外にも、類似の競技会が数多く存在しました。非公式な「ボホート」、若手騎士のための「チロシニア」、都市で開催された都市トーナメントなどです。これらの競技会は、馬上槍試合と混同されることもありましたが、武器や防具、参加者、開催場所などに違いが見られました。

ジョストと馬上槍試合

ジョストは、初期から馬上槍試合の一部として行われていました。トゥルネイの前夜祭や前座として行われましたが、12世紀頃には禁止されることもありました。しかし、13世紀初頭には人気を獲得し、馬上槍試合とは別に開催されるようになりました。13世紀には、「円卓の催し」と呼ばれるジョストだけの競技会も現れ、人気を博しました。

装備

馬上槍試合で使用された装備については、実戦で使用されたものと同じであったと考えられています。ただし、剣は刃を鈍らせたものを使用していたと考えられます。13世紀頃からは、ジョストにおいては特別な槍などが用いられるようになりました。

上馬上槍試合の終焉

馬上槍試合の衰退は、直線的な過程ではありませんでした。14世紀には、騎士道物語の影響もあり、馬上槍試合は戦士としての重要な技術と見なされていました。イングランドでは、武勇を重んじる王の治世において復活する場面もありましたが、最終的には衰退していきました。イングランドで最後の馬上槍試合が行われたのは1342年、フランスでは1379年です。

馬上槍試合は、中世ヨーロッパの社会文化を反映する重要なイベントでした。その盛衰の歴史は、時代の変遷と社会構造の変化を物語る貴重な資料となっています。

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