ウィルダネスファーストエイド

ウィルダネスファーストエイド（WFA）とは

ウィルダネスファーストエイド（WFA）は、野外・災害救急法とも呼ばれ、主にアウトドア活動中や災害発生時など、医療機関への搬送が容易ではない状況下で、傷病者の応急処置を行うための体系的な知識と技術です。医療機関に引き継ぐまでの間、ファーストレスポンダーとして傷病者の状態悪化を防ぐための重要な役割を担います。

WFAが対象とする場所

WFAが対象とする「野外」とは、単なる屋外ではなく、人里離れた場所、遠隔地、僻地など、交通の便が著しく制限される場所を指します。このような環境下では、救急車などの迅速な対応が期待できず、医療機関への搬送に時間がかかるため、現場での応急処置が非常に重要になります。また、都市部であっても、災害などにより交通が寸断され、医療機関への搬送に時間がかかる状況下では、「野外」とみなされます。

WFAと応急手当の違い

応急手当・救命手当は、怪我や病気を「治療」する行為ではなく、あくまでも傷病者を医師などの専門家に引き渡すまでの間、症状が悪化しないようにするための「一時的な措置」です。この点を理解しておくことが重要です。

野外での事故のリスク

アウトドア活動は、自然環境に身を置くため、天候の急変、落石、土砂崩れ、洪水といった自然災害のリスクを常に伴います。降雨による低体温症、落雷、倒木、転倒、滑落、溺水などの事故は、救助がすぐに来ない状況下では、現場にいる救助者の力だけで対処しなければなりません。そのため、救助者の安全を確保しつつ、傷病者への適切な対応を行うことが求められます。

また、登山やトレッキング中の脱水症状、まめなども、転倒などの事故につながりかねないため、未然に防ぐための知識もWFAの重要な要素です。

WFAで学ぶこと

WFAでは、以下のような項目を学びます。

傷病者のアセスメント（評価方法）: 傷病者の状態を正確に把握するための評価方法。
捻挫、骨折の固定: 添え木などを利用した固定法。
低体温症への対処: 低体温症の症状と対処法。
野外実地訓練: 実際の野外環境を想定した訓練。
傷病や事故の記録: 傷病者の状態や処置内容を記録する方法。
装備品を利用した患者搬送: 装備品を活用した搬送方法。
退避計画の策定: 安全に現場から退避するための計画。

一般的な応急手当との違い

一般的な応急手当は、都市部での事故や怪我を想定し、救急車が到着するまでの数分から数十分間の処置を目的としています。一方、WFAは、医療機関への搬送に数時間から一日以上かかる状況下での応急処置を想定しています。そのため、限られた物資の中で、いかに傷病者の状態を安定させ、安全に退避させるかが重要になります。

WFAと都市型応急手当の主な違い

利用できる物資: WFAでは、携行品や現場にある自然物のみを利用するため、利用できる物資が限られます。
救助: WFAでは、救助がすぐに来ない状況を想定する必要があります。
通信: WFAでは、通信手段が限られる場合を想定する必要があります。

WFAの発祥と現状

WFAは、カナダやアメリカなど、広大な森林や荒野を有する国で発展しました。1980年代頃から、登山ガイドやカヤックガイドなどのプロフェッショナルが、経験を基に体系化しました。現在でも、公的な資格としては確立されていませんが、Willderness Medical Society（WMS）が発行するガイドラインなどが広く参考にされています。

北米でのWFA

アメリカでは、山岳ガイドがレベルに応じてWFAの講習を受け、資格を取得することが推奨されています。

ヨーロッパでのWFA

ヨーロッパでは、アルプスなど山岳地帯の環境に合わせて、国際山岳連盟などのガイドラインに準拠したプログラムが整備されています。

日本でのWFA

日本では、国土の狭さや救急医療体制の充実により、市民の間でWFAが広まる土壌がありませんでした。山岳ガイドも民間資格であり、WFAの資格取得は必須ではありませんでした。しかし、近年では、WFAの重要性が認識され始め、民間団体による研究や勉強会を通じて知識の普及が図られています。

WFAのライセンス講習

WFAの講習では、傷病の判定、応急処置、予防などに重点が置かれます。講習期間は2日から1ヶ月近くまで様々で、内容やレベルも団体によって異なります。講習には、シナリオ・シミュレーション・実地訓練などが組み込まれ、現場を想定した実践的な訓練が行われます。講習を修了し、筆記や実技のテストに合格すると、3年間有効なライセンスを取得できます。

日本国内で取得可能なライセンス

日本では、一般社団法人ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン（WMAJ) 、スリップストリーム、Wilderness Medicine Training Center(WMTC)、Stonehearth Open Learning Opportunities Wilderness Medicine (SOLO) Japanなどが講習を開催しています。

主な講習団体とコース

一般社団法人ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン（WMAJ)
WALS医師レベル
WEMT救急救命士レベル
WFRプロフェッショナルレベル
WAFAアドバンスレベル
WFAベーシック
スリップストリーム
E-WFA
A-WFA
Wilderness Medicine Training Center(WMTC)
スタンダードWFAコース
ハイブリッドWFAコース
スタンダードWFRコース
ハイブリッドWFRコース

北米の主な資格認証団体

Willderness Medical Society（WMS）
Wilderness Medical Institute of NOLS (WMI)
Wilderness Medical Associates (WMA)
Center for Wilderness Safety (CWS)
Canadian Wilderness Medical Training (CWMT)
Wilderness Medicine Training Center (WMO)
Stonehearth Open Learning Opportunities Wilderness Medicine (SOLO)
Slipstream　Willderness First Aid

まとめ

ウィルダネスファーストエイド（WFA）は、アウトドア活動や災害時など、医療機関への搬送が困難な状況下で、傷病者を救うために不可欠な知識と技術です。WFAを学ぶことで、自分自身や周りの人の安全を守ることができます。

参考文献

Wilderness Medical Society Practice Guidelines: for Wilderness Emergency Care ISBN 978-0762741021
登山サバイバル・ハンドブック　ISBN 978-4904153031
山の救急医療ハンドブック　ISBN 978-4635156035
登山者のためのファーストエイド・ブック ISBN 978-4808309312
野外のファーストエイド術 (OUTDOOR HANDBOOK)ISBN 978-4925020237
山と渓谷2011 6月号 - 9月号　ASIN:B004XW4ING

関連項目

国際ガイドライン2005
救命講習
ライフセービング
バイスタンダー

外部リンク

ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン
山岳医療救助機構
* 日本アウトワード・バウンド協会

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