ウィーン市庁舎

ウィーン市庁舎：歴史と建築の粋

ウィーン市庁舎（Wiener Rathaus）は、オーストリアの首都ウィーンの市役所庁舎として、その壮麗な姿で訪れる人々を魅了しています。1872年から1883年にかけて、建築家フリードリヒ・フォン・シュミットの設計により建設され、ウィーン市長と市議会が執務を行う場所として、また市民の集いの場として重要な役割を担っています。ウィーンは単独で連邦州と同等の地位を持つため、市議会は州議会としての機能も兼ね備えています。

歴史的背景

19世紀中頃、ウィーン市域の拡大と人口増加に伴い、旧市庁舎が手狭になったため、新たな市庁舎の建設が計画されました。1868年、コンペの結果、フリードリヒ・フォン・シュミットの案が採用され、建設地は当初リングシュトラーセ沿いが検討されましたが、最終的にヨーゼフシュタットの斜堤の一部に決定しました。この場所は以前練兵場として使用されていたものの、時のウィーン市長カエタン・フェルダーの尽力により、市が取得に成功しました。

当時、リングシュトラーセ沿いでは、ウィーン宮廷歌劇場や帝国議事堂など、歴史主義建築の建造が相次いでいましたが、市庁舎はそれらとは異なり、ウィーン市が主導して建設された点で特別な存在でした。約1400万グルデン（2000年時点の価値で約1億2350万ユーロ）を費やして完成し、1885年に市役所機能が移転しました。旧市庁舎は現在、区役所や美術館、公文書館として利用されています。

1927年からは、庁舎内に市庁舎消防局が併設され、一般的な消防活動のほか、防災センターとしての機能や、パスポートの緊急発行業務なども行っています。

建築の特徴

完成した市庁舎は、奥行き152m、幅127m、建築面積19,592m²、総面積113,000m²という巨大な規模を誇ります。1,575の部屋と2,035枚の窓を有し、そのファサードはゴシック・リヴァイヴァル建築の代表例として知られています。

特に目を引くのは、高さ105mの尖塔で、これはフランドル地方の市庁舎に影響を受けたものです。7つの中庭を持つ設計は、バロック様式の宮殿を彷彿とさせます。

大ホール（Festsaal）は、奥行き71m、幅20mあり、リングシュトラーセ沿いのホールの中でも最大級です。年間約800もの展覧会、コンサート、舞踏会などが開催され、ヨーロッパ最大のエイズチャリティイベント「Life Ball」の会場としても利用されています。

市庁舎地下には、文化財として登録されている「ラートハウスケラー（Rathauskeller）」があります。3,500平方メートル以上の広さを持つこの空間は、歴史的な壁画や装飾が施されており、イベントやパーティーにも利用可能です。2005年には大規模な改修工事が行われ、歴史的な壁画や木造建築が修復されました。

ラートハウスマン

市庁舎の尖塔の頂上には、「ラートハウスマン」と呼ばれる、旗を持った騎士の像が立っています。この像は、鍛造職人のルートヴィヒ・ヴィルヘルムからウィーン市への贈り物で、マクシミリアン1世が使っていた鎧がデザインの基になっています。

当初、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世は、市庁舎の塔の高さを近隣のヴォティーフ教会（99m）よりも低くするように指示しましたが、設計者のフリードリヒ・フォン・シュミットは、塔の高さを98mとし、その上にラートハウスマンを設置することで、結果的にヴォティーフ教会の高さを超えることになりました。ラートハウスマンは高さ3.5m、旗を含めると5.4m、総重量1,800kgで、1892年10月21日に設置されました。

1985年の修復工事では、ラートハウスマンも一旦降ろされレストアされ、この際にレプリカが制作されました。現在、ラートハウスマンはウィーンの象徴の一つとなっており、そのミニチュア版「ゴールデン・ラートハウスマン」は、功績のあった人物に贈られる賞として定着しています。

市庁舎前広場と公園

市庁舎前には、「ラートハウス広場（Rathausplatz）」が広がり、その両側には「ラートハウス公園（Rathauspark）」が広がっています。広さ約40,000m²のこの公園は、1873年に市庁舎の地鎮祭と同時に完成しました。広場の向かいにはブルク劇場があり、この一帯はウィーンの文化的な中心地となっています。

現在、市庁舎前広場では年間を通して様々なイベントが開催され、特に夏には「ウィーン市庁舎広場映画祭」、クリスマスシーズンにはクリスマスマーケット、冬にはアイススケートリンク「ウィーンのアイスドリーム」が有名です。これらのイベント期間中は、市庁舎がライトアップされ、美しい光景が楽しめます。

市庁舎広場の両側には、オーストリアの歴史的に重要な人物の彫像が8つ並んでいます。これらの像はもともとウィーン川にかかる橋の上にありましたが、橋の撤去に伴い、現在の場所に移設されました。

交通アクセス

• - 地下鉄U2線 Rathaus駅下車
• - 路面電車1・D線 Rathausplatz/Burgtheater駅下車

ウィーン市庁舎は、その歴史的、建築的価値に加え、様々なイベントの開催地として、ウィーン市民と観光客にとって欠かせない存在となっています。ぜひ一度、この壮麗な建物を訪れてみてください。

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