ウェスタの処女

ウェスタの処女：古代ローマの聖なる巫女たち

ウェスタの処女（Vestales）は、古代ローマで火床の女神ウェスタに仕えた巫女たちです。彼女たちはローマの永続と安定の象徴とされ、聖なる炎を守るという重要な役割を担っていました。

処女 神 ウェスタ

ウェスタは家政と結婚を司る女神でありながら、自身は処女でした。彼女は火そのものとして崇拝され、偶像崇拝はされませんでした。藤澤桂澄は、ウェスタの処女性は父権制以前の母権制の産物である可能性を指摘し、ウェスタのような処女神は「異界との接続」を司ると論じています。

歴史

ウェスタの処女の創設は、伝説によればヌマ・ポンピリウス王に帰せられます。彼は紀元前750年から紀元前673年頃に生きたとされる人物で、ウェスタの処女の職責を導入し、国庫から給与を支払いました。リウィウスによれば、ウェスタの司祭の起源はアルバ・ロンガにまで遡ります。最初のウェスタの処女は4人でしたが、セルウィウス・トゥッリウスによって6人に増やされました。後にアンブロジウスによって7人目が加えられたとも言われています。

ウェスタの処女は、ローマで権勢をふるい、影響力を持つようになります。スッラがユリウス・カエサルを追放した際には、彼女たちが仲裁に入り、カエサルの赦しを得ました。アウグストゥスは彼女たちを重要な奉納式や典礼に関わらせました。しかし、キリスト教の台頭とともにウェスタの聖職者団は解散され、聖なる炎も消されました。最後のウェスタの処女は、神殿から女神の彫刻の首飾りを外したセレナを非難したと言われています。この出来事は、ローマ帝国の衰退とキリスト教の隆盛を象徴する出来事となりました。

ウェスタ 神官長

ウェスタの処女たちは、最高神祇官の聖職者団に属するウェスタ神官長（vestalis maxima）によって監督されました。ウェスタ神官長は、ローマの女司祭の中で最高位であり、軍部から独立した存在でした。最後に名を残したウェスタ神官長は、380年のコエリア・コンコルディアです。

奉仕の概要

ウェスタの処女は、思春期前の少女から選ばれ、30年間禁欲を守ることを誓いました。この30年は、学び手の10年、勤め手の10年、教え手の10年の3つの期間に分けられます。30年後には結婚も可能でしたが、その尊敬されていた役割を放棄する者はわずかでした。もし結婚を選んだ場合は、ローマ法で女性に課せられていた制限を受ける必要がありました。

選抜

最高神祇官は、6歳から10歳までの若い候補者から籤で6人を選びました。候補者となるには、ローマの自由市民の娘であり、心身ともに健康である必要がありました。また、両親が健在である必要がありました。選ばれた少女は家を離れ、最高神祇官の指導のもとで聖職者としての生活を始めました。

務め

ウェスタの処女の主な務めは、聖なる炎を絶やさないことでした。彼女たちはまた、聖なる泉から水を汲み、典礼に用いる酒食を用意し、神殿の聖具を管理しました。彼女たちが聖火を守ることは、ローマ人の宗教観において非常に重要な意味を持っていました。聖火は、帝国においては帝室の炎ともみなされました。

ウェスタの処女は、人々の聖約や遺言を守る役割も担っていました。また、パラディウムなどの聖具の保護や、神への供物であるモラ・サルサという特別な粉を作ることも彼女たちの務めでした。

特権

ウェスタの処女には、多くの特権が与えられていました。

典礼には二輪の乗物で参列し、リクトルが先導しました。
競技会や公演会では来賓席が用意されました。
ローマの一般女性とは異なり、家父長制から独立し、財産権を持ち、意志を表明することができました。
通常の宣誓なしに証言することができ、その言葉は疑われることなく信じられました。
清廉潔白な人間とみなされ、公文書や重要な決定に意見を求められました。
その身体は不可侵であり、傷つけることは死罪を意味し、常に護衛が付きました。
有罪となった囚人や奴隷に面会し、解放することができました。

刑罰

聖なる炎を絶やすことは、重大な義務違反とみなされ、鞭打ちの刑が科せられました。ウェスタの処女の純潔は、ローマ国家の安定と直接結びついていると考えられていました。禁欲の誓いを破った者は、生き埋めにされるという厳しい刑罰を受けました。古代の信仰によれば、誓いを破った巫女は市内に埋める必要がありました。なぜなら、それは巫女の血を流すという禁忌を犯さずに命を奪う唯一の方法だったからです。

ウェスタの処女の秩序は1000年以上にわたって保たれましたが、不貞を咎められ有罪となった記録は10件しかありません。その審判は、ローマが政治的に不安定な時期になされたもので、彼女たちが危機の時代のスケープゴートにされた可能性を示唆しています。

ウェスタの処女たちの家

ローマにはウェスタの処女たちが暮らす住宅（Casa delle Vestali）がありました。パラティーノの丘の麓、神殿の真裏にあったウェスタのアトリウムは三階建てでした。

著名な人物

レア・シルウィア：処女であるべきレアと軍神マールスの間に、ロームルスとレムスが生まれ、ローマが建国されました。
ヘリオガバルス：国禁を犯してウェスタの処女と結婚した背徳のローマ皇帝。
アクウィリア・セウェラ：ヘリオガバルスの被害者で、再婚相手にさせられたウェスタの処女。
アエミリア：ウェスタの炎が消えた際に、自らの服を投げ入れて再び点火させた巫女。
トゥッキア：処女性を疑う告発を受けるが、儀式で潔白を証明したウェスタの処女。

結論

ウェスタの処女は、古代ローマにおいて非常に重要な役割を果たした聖職者でした。彼女たちは女神ウェスタに仕え、聖なる炎を守り、ローマの安定と繁栄を祈りました。彼女たちの生活は、多くの特権と厳しい戒律に彩られ、その存在はローマ社会に大きな影響を与えました。しかし、キリスト教の台頭とともにその役割は終わりを迎え、歴史の中に消えていきました。それでも、彼女たちの伝説は今もなお語り継がれています。

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