ヌマ・ポンピリウス

ローマ第二代王ヌマ・ポンピリウス：平和の王と社会改革

ヌマ・ポンピリウスは、紀元前8世紀にローマ第二代王として42年間、平和な治世を築いたとされる伝説的な人物です。初代王ロムルスが武力による拡大政策を推し進めたのに対し、ヌマは戦争を回避し、内政の充実と社会改革に力を注ぎました。その治世は、後世の皇帝アントニヌス・ピウスにも比肩されるほど高く評価されています。

謎に包まれた生涯

ヌマの生涯については、確かな史料が乏しく、多くの部分が伝説に彩られています。プルタルコスの『対比列伝』などによると、彼はサビニ人の名家に生まれ、哲学と瞑想を愛する知的な人物だったと伝えられています。若くして白髪になったという逸話も残されています。

ロームルスがローマ建国後、後継者選びにおいて元老院は当初、摂政を立てましたが、一年以上経過しても決まらず、民衆の不満が高まりました。そこで、元老院はヌマを新たな王として指名します。ヌマは当初辞退しましたが、鳥占いの結果、神々の意思と受け止め王位を受け継ぎました。

妻を亡くしたのち、ニンフのエゲリアと恋に落ちたと伝えられています。エゲリアはヌマの政治顧問のような役割を果たし、しばしばパラティヌスの丘にあるエゲリアの泉で会っていたとされています。

社会改革と平和な治世

ヌマの治世以前、ローマは周辺部族から盗賊集団と見なされていたとも言われています。しかしヌマは、法と慣習、そして祭祀を確立することにより、ローマを文化都市へと変貌させました。

彼の重要な業績の一つは、ローマ暦の改革です。それまでの10ヶ月暦を、12ヶ月暦へと改変し、より正確な暦を作成しました。また、部族間の対立を解消するために、住民をより小さな集団「パギ」に分割し、職業別組織も設立することで、部族間の対立を緩和しました。

さらにヌマは、戦争を抑制するために、宣戦布告の権限を「伝令僧」と呼ばれる祭祀職に限定しました。伝令僧は、戦争の前に相手方に補償条件を提示し、合意に至らない場合のみ宣戦布告を行うというシステムを導入しました。

ヤヌス神殿の建立

ヌマの最も有名な功績は、ヤヌス神殿の建立です。ヤヌス神は始まりと終わりの神とされ、神殿の扉は戦争時は開かれ、平和時は閉じられるとされました。ヌマの治世中は、この扉は常に閉ざされたままだったとされています。その後、ローマが帝国となるまで、この扉が開かれたままだった期間の方がずっと長かったとされています。しかし、ポエニ戦争後、6年間だけ閉じられた時期がありました。

ヌマの遺産

ヌマは、紀元前673年に亡くなりましたが、彼の娘や息子たちはローマの名家、カプリニア氏族やアエミリウス氏族の祖となりました。また、彼の家はクィリナスの丘に残り、後世の人々にも伝えられました。ヌマの孫にあたるアンクス・マルキウスは、後にローマの第四代王となります。

参考文献

プルタルコス『対比列伝』
リウィウス『ローマ建国史』
フィリップ・マティザック『古代ローマ歴代誌 7人の王と共和政期の指導者たち』（東眞理子訳、創元社、2004年）
グスターフ・シャルク『ローマ建国の英雄たち 神話から歴史へ』（角信雄・長谷川洋訳、白水社、1969年）

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