ウェルギニアの物語 (ボッティチェッリ)

『ウェルギニアの物語』は、ルネサンス期の巨匠サンドロ・ボッティチェッリが1500年から1504年にかけて制作したテンペラ画です。この作品は、共和政ローマ時代の伝説的な女性ウェルギニアの物語を題材としており、カッソーネやスパッリエーラを飾るための板絵として描かれました。

主題

この絵画の主題は、リウィウスの『ローマ建国史』に記された物語に基づいています。紀元前451年、十人委員会の一員であるアッピウス・クラウディウスは、平民に対して圧政的な政治を行っていました。彼は、平民ルキウス・ウェルギニウスの娘ウェルギニアに恋をし、彼女を自分のものにしようと画策します。アッピウスは、マルクス・クラウディウスにウェルギニアが自分の奴隷だと主張させ、裁判所で認めさせようとしました。しかし、ウェルギニアの父ウェルギニウスは、娘の貞操を守るために彼女を刺し殺します。この出来事がきっかけとなり、平民が反乱を起こし、十人委員会は解体されました。その後、アッピウス・クラウディウスはウェルギニウスに訴えられ、裁判を前に自ら命を絶ちました。

作品

ボッティチェッリは『ウェルギニアの物語』と対をなす『ルクレティアの物語』において、名誉の侵害と夫婦間の貞節というテーマを深く掘り下げています。これらの作品では、物語の3つの場面を、画面の左、中央、右に分割して異時同図法的に描いています。これらの場面は、古代の建築要素によって強調され、作品同士の関連性を強めています。このような複数の場面を1つの図像に組み合わせる手法は、ルネサンス初期の芸術では一般的なものでした。

また、これらの作品はテーマにおいても関連しており、どちらの物語も暴虐な支配者に対するローマ市民や兵士の反乱について言及しています。『ルクレティアの物語』では画面の左、右、中央へと物語が展開するのに対し、『ウェルギニアの物語』では、左から中央、右へと順を追って物語が展開しています。

画面左側では、ウェルギニアが他の女性たちと共にマルクス・クラウディウスに誘拐される場面が描かれています。中央では、アッピウス・クラウディウスが裁判官を務める法廷に連行され、奴隷と宣言される様子が描かれています。画面奥の丸天井の下にある後陣の玉座に座るアッピウスに対し、赤いマントをまとったウェルギニアの父ヴェルギニウスが嘆願しますが、訴えは退けられます。右側では、家族の名誉を守るためにウェルギニウスが娘を殺害し、馬に乗って逃亡する様子が描かれています。物語は古典的な建築物の中で展開されますが、人物たちは鮮やかな色で描かれており、その感情の動きが際立っています。

本作品と『ルクレティアの物語』の構図や建築要素の使用は、ボッティチェッリの弟子であったフィリッピーノ・リッピが制作した2作品『ウェルギニアの物語』および『ルクレティアの物語』と類似しています。フィリッピーノ・リッピは、これらの作品をボッティチェッリよりも早い時期に制作しており、一部はボッティチェッリの工房によるものとされています。

来歴

この作品の初期の来歴は不明ですが、1870年頃に美術史家ジョヴァンニ・モレッリによってローマの公益質屋モンテ・ディ・ピエタで発見されました。1891年、モレッリは自身のコレクションをアッカデミア・カッラーラに遺贈しました。2000年には修復が行われ、画面を覆っていた変色したニスが取り除かれました。この修復によって、過去の洗浄によって絵画が損傷を受けていることも明らかになりました。2019年には、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で開催された展覧会「Botticelli: Heroines + Heroes」において、『ルクレティアの物語』と再会を果たしました。

関連作品

『ルクレティアの物語』：同じくボッティチェッリが描いた、ローマの伝説を題材にした対作品です。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』 タッシェン（2001年）
ティトゥス・リウィウス『ローマ建国史』
岩谷智 訳『ローマ建国以来の歴史 2 伝承から歴史へ (2)』京都大学学術出版会、2016年

外部リンク

アッカデミア・カッラーラ公式サイト, サンドロ・ボッティチェッリ『ローマのウェルギニアの物語』

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