ウエスタン・サルーン

ウエスタン・サルーン：開拓時代の社交場

ウエスタン・サルーン、または単にサルーンとは、19世紀のアメリカ西部開拓時代に特有の酒場です。狩猟者、カウボーイ、兵士、金鉱採掘者、ギャンブラーなど、多種多様な人々が集まる社交場として機能していました。初期のサルーンは1822年、ワイオミング州ブラウンズホールで狩猟者向けに開業したのが始まりとされています。

1850年代後半には、サルーンは酒や食事を提供するだけでなく、宿泊も可能な便利な施設として広く認知されるようになりました。1880年頃には最盛期を迎え、カンザス州レブンワースでは150軒ものサルーンが存在したという記録が残っています。

サルーンの歴史

1880年代に入ると、サルーンと醸造所の関係が深まりました。過剰なサルーン競争の中、醸造所はイギリスの「特約酒場」システムを導入し、自らサルーンを経営するようになりました。醸造所は、理想的な立地の店舗を購入し、内装やビリヤード台、ボウリングレーンなどの娯楽設備を設置して、経営希望者に貸し出しました。中には、シュリッツ醸造所のように、顧客を誘引するために豪華なサルーンを建設した例もあります。

また、法律も醸造所によるサルーン経営を後押ししました。シカゴ市議会は、警察の強化費用を賄うため、1883年から1885年の間にサルーンの免許料を大幅に引き上げました。しかし、中小のオーナーには支払いが難しく、醸造所が経営するサルーンが増加しました。

政治家もサルーンを頻繁に利用しました。読み書きが苦手な人々にとって、サルーンは仕事や住居に関する情報を得る貴重な場所でした。政治家は、これらの人々を支持基盤として取り込むことができました。また、工場地区では、サルーンは給与小切手の換金所や職業紹介所、組合の集会所としても利用されました。

しかし、1893年に反サルーン連盟が発足し、サルーンへの反対運動が激化しました。禁酒運動は1920年に合衆国憲法修正第18条によって全国的な禁酒法を実現させましたが、1933年に禁酒法は撤廃され、サルーンは再び繁栄を取り戻しました。

フリーランチの存在

サルーンでは、客を呼び込むためにフリーランチが提供されていました。これは、最低一杯の飲み物を注文すれば無料の食事を提供するというサービスです。提供される食事は粗末なものから手の込んだものまで様々でしたが、通常は飲み物一杯の値段を上回る価値がありました。サルーン経営者は、客が食事で喉が渇き、さらに飲み物を注文し、常連客となることを期待していました。

多様なサルーンの形態

サルーンの形態は、建設された時期や場所に大きく左右されました。初期のサルーンは簡素な造りで、最低限の家具しかありませんでした。しかし、街が発展するにつれて、サルーンは豪華になっていきました。バーテンダーは、その外見と酒を注ぐ技術を競い合い、顧客を楽しませました。

サルーンの入口には、スイングドアと呼ばれる、腰から胸の高さまでの両開きドアが設けられているのが一般的でした。また、西へ向かう旅人の中には、馬車で酒を売る者や、手持ちの材料で即席のサルーンを建設する者もいました。

サルーンは、民族によっても特徴がありました。アイルランド系は、ウイスキーを好む立ち飲みバーを経営し、ドイツ系は、テーブル席で食事とビールを提供する家族向けのサルーンを経営しました。他の民族は、郷土料理を提供する社交クラブのようなサルーンを経営していました。

サルーンでの娯楽

サルーンは、単なる酒場ではなく、娯楽の場でもありました。サルーンには踊り子がおり、中には売春婦として働く者もいました。また、ファロ、ポーカー、サイコロ賭博などのギャンブルが盛んに行われていました。競争が激化するにつれて、ビリヤード、ダーツ、ボウリングなどの娯楽も提供されるようになりました。ピアノ演奏やフレンチカンカンのショーを上演するサルーンも存在しました。

サルーンで提供された酒

初期のサルーンでは、自家製の粗悪なウイスキーが提供されていました。サルーン経営者は、利益を上げるために、ウイスキーをテレビン油やアンモニアなどで薄めて販売していました。これらの粗悪な酒は、「Tanglefoot」「Forty-Rod」など、様々な名前で呼ばれていました。

しかし、街が発展するにつれて、サルーンは豪華になり、ボヘミアングラスや油絵が飾られるようになりました。提供される酒の品質も向上し、東部やヨーロッパから輸入されたウイスキーも販売されるようになりました。また、様々なカクテルも人気を集めました。

多くのサルーンでは、冷蔵設備がなかったため、ビールは常温で提供されていました。1880年に、アドルファス・ブッシュがバドワイザーに冷蔵と低温殺菌法を導入するまで、ビールは傷みやすい飲み物でした。一部のサルーンでは、店内でビールを自家醸造していました。

著名なサルーン

数多くのサルーンの中で、特に有名なものには、モンタナ州マイルズシティのファースト・チャンス・サルーン、カンザス州アビリーンのブルズ・ヘッド、コロラド州エルドラのアーケード・サルーン、アリゾナ州トゥームストーンのバードケージ・シアター、ネバダ州バージニアシティのバケット・オブ・ブラッド・サルーンなどがあります。これらの店は、しばしば24時間営業していました。

ブルズ・ヘッドの逸話

カンザス州アビリーンのブルズ・ヘッドでは、店主が壁に勃起した雄牛の絵を描いたことから、保安官のワイルド・ビル・ヒコックとの間に争いが生じました。この事件は、西部開拓時代の有名な逸話として語り継がれています。

ワイアット・アープとサルーン

元保安官であり、ギャンブラーであるワイアット・アープも、サルーンの経営に携わっていました。彼は、アリゾナ州トゥームストーンのオリエンタル・サルーンでファロの権益を得て、マネージャーとして働きました。その後、様々な場所でサルーンを開業し、成功を収めました。

1899年、アラスカのノームでデクスター・サルーンを開業し、成功を収めています。その後、ネバダ州トノパーでノーザン・サルーンを開き、連邦保安官代理も務めました。彼の生涯は、西部開拓時代のサルーンの歴史を語る上で欠かせないものとなっています。

このように、ウエスタン・サルーンは、西部開拓時代の人々の生活と文化に深く根ざした存在でした。

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