ウチナーヤマトグチ

ウチナーヤマトグチとは

ウチナーヤマトグチ、または沖縄大和口とは、1870年代の琉球処分後に沖縄へもたらされた日本語（標準語やその方言）が、伝統的な沖縄の言葉（琉球諸語）と混ざり合って生まれた言語です。これは、沖縄県民が「方言」と認識する琉球諸語とは異なり、より均質な言葉として使われています。県外の人が「沖縄弁」や「沖縄訛り」と呼ぶ言葉とほぼ同じものと考えると良いでしょう。

ウチナーヤマトグチの特徴

文法と語彙

ウチナーヤマトグチは、ピジンやクレオールのように語彙や語形変化が極端に単純化されているわけではありません。文法は基本的に標準語と同じであり、本土の人が聞いても大体理解できます。しかし、琉球諸語の中でも特に沖縄本島の言葉の影響を強く受けており、独特のアクセントや語彙を持っています。また、社会的な風土や若者言葉の影響も受けて、標準語との違いが生まれています。

1972年の本土復帰以降に生まれた世代では、琉球諸語ではなくウチナーヤマトグチを母語とする人が増えています。ただし、琉球諸語とウチナーヤマトグチの境界は曖昧で、ウチナーヤマトグチが琉球諸語に影響を与えている部分もあります。

歴史的背景

第二次世界大戦後、標準語を使ったメディアが普及し、学校で標準語を教える運動が行われた結果、昔からの方言を話す人は高齢者だけになり、若い世代は方言を理解できない、または話せない人が増えました。その一方で、普及した標準語は、元の方言の影響を強く受け、また米軍統治によって本土との交流が一時的に断絶されたことで、言葉の意味が変化したり、誤解されたまま使われることもありました。これらの要素が組み合わさり、伝統的な方言でも標準語でもない新しい言葉「ウチナーヤマトグチ」が形成されたのです。戦後教育を受けた世代は、主にこのウチナーヤマトグチを話します。

サブカルチャーとウチナーヤマトグチ

1980年代後半以降、ウチナーヤマトグチは沖縄のサブカルチャーの中で見直されるようになりました。戦後の沖縄独自の文化や習慣とともに再発見され、書籍も出版されました。1990年代には、ウチナーヤマトグチを使った劇団やお笑い、音楽などが流行し、2000年代には、沖縄の食文化やライフスタイルへの関心が高まる中で、テレビドラマや沖縄出身のタレントを通じて、全国に「スローで優しい」印象が広まりました。

ウチナーヤマトグチの音韻と文法

アクセント

ウチナーヤマトグチのアクセントは、九州地方南西部のアクセントと似た特徴を持っています。関東地方の出身者には京阪式アクセントに近い印象を与えるかもしれませんが、実際には東京式アクセントが変化したものだと考えられています。

発音

「え段+い」の音を[e:]ではなく[ei]と発音することが多くあります。これは、九州や四国にも広く見られる発音の特徴です。

動詞の活用

命令形は、北海道や九州地方のように、e段で活用されます。例えば、標準語では「着ろ」「見ろ」というところを、「着れ」「見れ」と活用します。

過去形の区別

動詞の過去形には「た」と「(し)よった」の区別があります。「(し)よった」は、話者が直接見聞きした情報に対して使われ、「あいつが食べヨッタ」のように、直接的な証拠を伴う場合に用いられます。この証拠性を表す表現は、他の地域で生まれた接触言語には見られない特徴です。

ウチナーヤマトグチの語彙

九州方言との共通点

語彙には、九州方言、特に鹿児島弁と共通する部分が多く見られます。例えば、「来る」が「行く」という意味になったり、「濃い」を「こゆい」と発音したり、語尾に「〜ねぇ」を多用したりする点は、九州方言と共通しています。

外来語

歴史的に宗主国が何度も変わっているため、中国語やアメリカ軍の統治時代に定着した英語に由来する語彙も豊富です。しかし、これらの言葉は元々の意味や語源が忘れられていることも多く、日本語由来の言葉についても、識字率が低かったため、正確な語源がわからない言葉も少なくありません。

まとめ

ウチナーヤマトグチは、沖縄の歴史や文化を反映した独特な言語です。標準語をベースにしつつも、琉球諸語の影響や社会的な変化を受けて独自の発展を遂げました。この言葉は、沖縄のアイデンティティを象徴する重要な要素であり、今後もその変化と多様性が注目されるでしょう。

参考文献

下地, 美紀 (2019). “沖縄本島中南部の若者におけるウチナーヤマトグチ使用 : 方言に対する意識から沖縄方言の現状を探る”. 理論地理学ノート 21: 43-54.
鄭, 雅云 (2020). “台湾華語における助動詞｢yǒu(有)｣をもつ文の時間的解釈”. 言語記述論集 12: 141-159.
當山, 奈那著「ウチナーヤマトゥグチ」、木部, 暢子編『明解方言学辞典』三省堂、2019年、16頁。
當山, 奈那著「証拠性」、木部, 暢子編『明解方言学辞典』三省堂、2019年、84頁。
藤木勇人『ハイサイ!沖縄言葉―ウチナーヤマトグチ』双葉社、2004年。
ロング, ダニエル (2010). “言語接触論から見たウチナーヤマトゥグチの分類”. 人文学報　日本語教育学 428: 1-30.