レイクトラウト

レイクトラウト（Lake Trout）

レイクトラウト（Salvelinus namaycush）は、主に北アメリカ北部に生息する冷水性のイワナの一種です。その大きさからゲームフィッシュとして、また食用魚としても重宝されています。

概要

レイクトラウトは、イワナの仲間では最大級で、記録上では46.3kgに達するものもいます。しかし、過去にはヤツメウナギによる吸血被害、乱獲、そして水質汚染などが原因で、資源が著しく減少しました。

体色には個体差があり、緑褐色、銀色、茶褐色、黒色など様々です。一般的に背部は暗色で腹部は明るい色をしています。体表には淡色の斑点が多数見られます。カワマスほどではありませんが、頭部や背部には虫食い状の模様があります。

冷たく、酸素が豊富な水を好むレイクトラウトは、イワナの中でも特に低温（4-10℃）を好みます。湖では、夏の2層化（水温による層の分離）の間は表層で見られますが、通常は水深20-60mの深場に生息しています。

貧栄養の環境では成長が遅く、成熟も遅いため、乱獲の影響を受けやすい魚です。また、孵化場からの放流が、天然個体群に悪影響を与えているという指摘もあります。

生態

レイクトラウトには、大きく分けて2つのタイプが存在します。表層に餌となる小魚がいない湖では、プランクトンを主食とする個体群が形成されます。これらの個体は成長が遅く、小型のまま成熟することが多いです。一方、深層に小魚が生息する湖では、魚食性のレイクトラウトが見られます。これらの個体は成長が早く、大型化しますが、個体数は多くありません。食性の違いに関わらず、レイクトラウトのバイオマス密度は、類似した湖では比較的均一であることが知られています。

レイクトラウトという名前とは異なり、70cm程度までの若い個体は、川の深い淵に生息することも珍しくありません。その際、背中の虫食い状の模様から、ブラウントラウトと間違われることがあります。

スペリオル湖には、「siscowet」、「paperbelly」、「lean」と呼ばれる、明確に異なる3つの表現型が存在します。これらのグループは遺伝的な影響を受けており、単なる環境適応ではないと考えられています。siscowetは、シロマス亜科の魚による捕食と乱獲により、その数を大きく減らしました。siscowetは他のタイプよりも大きく、太っており、20世紀には商業的な注目を集めました。しかし、1970年以降、スペリオル湖におけるsiscowetの個体数は回復し、1億尾と推定されています。

分布

レイクトラウトは、動物地理学的に見て珍しい分布域を持っています。アラスカを含む北アメリカ北部、カナダ、アメリカ合衆国北東部に生息しています。また、ヨーロッパ、南アメリカ、アジアの一部の地域にも導入されています。レイクトラウトが生息するアメリカ大陸にはイトウが生息せず、逆にレイクトラウトが生息しないヨーロッパ・ユーラシア大陸にイトウの生息域が集中している点は興味深い事実です。

交雑

レイクトラウトは、非常に稀にカワマスと交雑することがあります。しかし、そのような交雑種はほとんどが生殖能力を持ちません。スプレイクと呼ばれる交雑種は、人工的に繁殖され、スポーツフィッシングのために湖に放流されています。また、カナダのセントローレンス湾周辺の個体は、外見はレイクトラウトですが、絶滅したホッキョクイワナのミトコンドリアDNAを持っていることがわかっています。

種小名のnamaycushは、アルゴンキン語族に属するアメリカ先住民族の言語に由来すると考えられています（例：オジブウェー語のnamegos = レイクトラウト、namegoshens = ニジマス）。

日本におけるレイクトラウト

日本では産業管理外来種に指定されています。

1966年（昭和41年）に、カナダのオペオンゴ湖から水産庁淡水区水産研究所日光支庁（現・増養殖研究所日光庁舎）に導入されました。現在、釣り人がレイクトラウトを狙える場所は中禅寺湖のみです。陸からのキャスティングで狙えるのは早春と晩秋に限られ、それ以外のシーズンは深場にいるため、ボートを用いたディープトローリングが一般的です。

中禅寺湖のレイクトラウトは、福島第一原子力発電所事故による放射性物質汚染の影響で、2012年以降持ち出しが禁止されていましたが、体内の汚染濃度が減衰したため、2023年4月に全面解除される予定でした。しかし、2023年3月には山梨県の本栖湖でも個体が確認され、栃木県と山梨県では密放流が行われたと見ています。そのため、栃木県内水面漁場管理委員会は、密放流を防ぐためにレイクトラウトの生きた状態での持ち出しを当面禁止することとしました。

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