エイダ・コールマン

エイダ・コールマン（Ada Coleman、1875年 – 1966年）は、カクテル史における最も優れた女性バーテンダーの一人として知られています。彼女はロンドンの名門、サヴォイ・ホテルのアメリカン・バーでチーフ・バーテンダーを務め、「コリー（Coley）」の愛称で親しまれました。

サヴォイ・ホテルでの活躍

1903年、コールマンはアメリカン・バーのチーフ・バーテンダーに抜擢され、右腕となるローラ・バージェスと共に1926年までその任を務めました。彼女は訪れる客に様々なカクテルを提供し、特に喜劇役者チャールズ・ホートリーのために創作したとされる「ハンキー・パンキー」は、21世紀になった現在でも世界中のバーで愛される定番カクテルとなっています。その人気は衰えることなく、世界の人気カクテルベスト50の常連です。

生い立ちとキャリア

コールマンは1875年、サヴォイ・グループが運営するゴルフクラブで働く父親のもとに生まれました。父親からは「手に職を持つように」と教えられ、その教えに従い、1898年にサヴォイ・グループ傘下のホテルのフラワー・ショップで働き始めます。1900年頃には、同じくサヴォイ系列のクラリッジ・ホテル（ロンドン・メイフェア）のバーに移り、酒類やカクテルの知識、バーテンディングの基礎を学びました。

20世紀初頭のロンドンでは、ホテルバーで働く従業員の半数近くが女性でした。彼女たちは「バーテンダー」ではなく「バーメイド」と呼ばれていました。商人や工場労働者階級の若い女性にとって、バーメイドの仕事は長時間労働ではあったものの、「他の仕事と比べると、仕事の内容も単調でなく、収入も良い」とされていました。しかしながら、女性の職業としては「バーの仕事は肉体的、道徳的によくない」という考え方も存在し、女性を排除しようとする動きもありました。そうした状況下にもかかわらず、当時のサヴォイ・ホテルグループのオーナー、ルパート・ドイリー・カートは、1903年にコールマンをサヴォイ・ホテルのアメリカン・バーのチーフ・バーテンダーに抜擢するという大胆な決断を下したのです。

マーク・トウェイン、マレーネ・ディートリヒ、チャーリー・チャップリンといった各界の著名人から厚い信頼を得たコールマンは、「コリー」という愛称で呼ばれ、多くの人々に愛されました。

突然の引退とその後

1925年、サヴォイ・ホテルはコールマンとバージェス両名のアメリカン・バーからの引退を突然発表します。この引退は、コールマンやバージェス本人からの申し出ではなく、顧客からのクレームが遠因となっていました。1920年にアメリカ合衆国で施行された禁酒法の影響で、サヴォイ・ホテルにはアルコールを求めるアメリカ人客が増加していました。しかし、アメリカ人は女性の社会進出に保守的な考えを持つ人が多く、「バーは女性が働くにはふさわしくない」という理由から、コールマンとバージェスの作るカクテルや存在そのものを敬遠するようになったのです。そうしたクレームに屈する形で、ホテル・オーナーはコールマンとバージェスを排除してしまいました。コールマンの後任には、1921年からアメリカン・バーで働いていたハリー・クラドックがチーフ・バーテンダーに就任することになりました。

クラドックのコールマンに対する評価や思いは記録に残されていませんが、後年クラドックが編纂したカクテルブック『サヴォイ・カクテルブック』には、コールマンが創作した「ハンキー・パンキー」がしっかりと収録されています。

アメリカン・バーを去った後のコールマンについては、詳しい情報は残されていません。サヴォイ・ホテルのフラワー・ショップで再び働いていたという説もありますが、否定的な見解もあります。晩年は別のホテルのクローク・スタッフとして働いていたとされ、1966年にその生涯を閉じました。

関連するカクテル

ハンキー・パンキー: コールマンの代表作として知られるカクテル。
マンハッタン: コールマン自身がデイリー・エクスプレスに語ったところによれば、クラリッジ・ホテル時代に初めて作ったカクテル。
* ホワイト・レディ: 創作者には諸説ありますが、コールマンが創作したという説も存在します。

エイダ・コールマンは、カクテル史にその名を刻む、不屈の女性バーテンダーでした。

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