エウジェニオ・コセリウ

エウジェニオ・コセリウ：言語学に革新をもたらした巨匠

エウジェニオ・コセリウ（Eugenio Coseriu, 1921年7月21日 - 2002年9月7日）は、20世紀を代表する言語学者の一人です。ルーマニア（現モルドバ）で生まれ、ロマンス諸語を中心に研究を行いながらも、個別言語の研究に留まらず、言語理論において独自の境地を切り開きました。

生涯

コセリウは、ルーマニア王国のベルツィ県ミハイレニで生を受け、幼少期を過ごしました。バルツィの高校を経て、ヤシ大学に進学。その後、イタリア文化会館の奨学金を得てローマ・ラ・サピエンツァ大学で学び、ジョバンニ・マーヴァ(Giovanni Maver)の下で博士号を取得しました。パドヴァ大学、ミラノ大学でも研鑽を積み、アントニオ・バンフィ(Antonio Banfi)の下で哲学の博士号も取得しています。

1950年代にはウルグアイ共和国大学で一般言語学と印欧語を教鞭をとる傍ら、マラガ大学、ナバーラ大学、コインブラ大学でも教えました。1960年代にはドイツに移住し、ボン大学、フランクフルト大学の招聘教授を経て、1963年からはテュービンゲン大学でロマンス語の教授として活躍しました。1991年に退官するまで、後進の育成に尽力。同年には、ルーマニア学士院の名誉会員に選出されました。2002年、テュービンゲンにて生涯を閉じました。

研究内容と業績

コセリウの言語学研究は、ソシュールのラング（langue：言語体系）・パロール（parole：発話）という二分法に対する批判から生まれました。彼は、この二分法を乗り越えるために、「体系」、「慣用」、「言」という三分法の理論を提唱しました。この理論は、音韻論から言語類型論に至るまで、言語のあらゆる側面を包括的に捉えることを可能にするものでした。

コセリウの著作や論文は、主に英語以外の言語で執筆されており、英語圏での知名度は必ずしも高くありません。しかし、彼の理論はヨーロッパを中心に多くの言語学者に影響を与え、現代言語学の重要な礎となっています。

また、コセリウは日本の言語学者、関口存男の研究を高く評価していました。1983年に来日した際、関口の「文例集」を発見し、その学術的価値を世界に広めるきっかけを作りました。コセリウは関口の故郷である姫路で講演を行い、「関口を未来において今までのように埋もれたままにしてしまったら、言語学は多くのものを失ってしまうことになる」と述べ、その功績を称えました。

日本語訳された主な著作

『一般言語学入門』三修社, 1979年
『うつりゆくこそことばなれ : サンクロニー・ディアクロニー・ヒストリア』クロノス 1981年（のちに『言語変化という問題：共時態、通時態、歴史』岩波文庫、2014年として再刊）
『言語地理学入門』グロータース・柴田武共訳 三修社 1981年
『コセリウ言語学選集:人間の学としての言語学』(「言語体系」三修社, 1981年、「構造的意味論」三修社, 1982年、「文法と論理」三修社, 1982年、「ことばと人間」三修社, 1983年)

エウジェニオ・コセリウは、言語学の分野に多大な貢献をした、20世紀を代表する知性の一人として、その名が記憶されるべき人物です。

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