エジプト高速鉄道

エジプト高速鉄道計画の概要

エジプトでは、経済発展と人口増加に伴い、既存の都市間鉄道網の老朽化が深刻な課題となっています。近代化の遅れや整備不足により、事故が頻発する状況を改善するため、2018年に高速鉄道建設プロジェクトが発表されました。このプロジェクトは、地中海沿岸と紅海沿岸の主要都市を結ぶ新たな交通インフラを整備することを目的としています。

2021年1月、ドイツのシーメンス・モビリティを中心とするコンソーシアムが、第1期路線の建設権を獲得しました。このコンソーシアムには、エジプトのオラスコム・コンストラクションとアラブ・コントラクターズも参加しています。シーメンス・モビリティは、車両製造や鉄道インフラ技術の提供を担い、トンネルや橋梁などの土木工事はエジプトのトンネル公社が担当します。第1期路線は、2027年の開業を目指しており、約15,000人の雇用創出が見込まれています。

さらに、エジプト政府は第2期、第3期路線の建設も計画しており、2022年にはシーメンス・モビリティを中心とするコンソーシアムがこれらの建設権も獲得しました。全線開通すると、総延長約2000km、60駅を超える大規模な高速鉄道網がエジプト国内に整備される予定です。開業後の運営とメンテナンスは、ドイツ鉄道の子会社であるDBインターナショナル・オペレーションとエジプトのエルスウェディ・エレクトリックが15年契約で担当し、合弁会社を設立して運営を行います。

路線計画

エジプト高速鉄道は、既存の都市間鉄道とは異なる独立した路線網として建設されます。信号システムには、ETCSレベル2が採用されます。2024年現在、以下の3つの路線の建設が計画されています。

第1期路線:
地中海沿岸のマルサ・マトルーフから、カイロ近郊の新首都（新行政首都）などを経由し、紅海沿岸のアイン・スクナを結ぶ主要路線。
途中から分岐し、大都市アレクサンドリアに向かう路線も含まれます。
旅客輸送に加え、貨物輸送も担う予定で、「鉄道のスエズ運河」とも呼ばれています。
2023年には、マルサ・マトルーフから西方へ延伸し、サルームや隣国リビアのベンガジへ向かう区間の建設計画も発表されています。
第2期路線:
カイロ近郊の10月6日市で第1期路線と接続し、ナイル川沿いの都市を結ぶ路線。
複数の旅客駅と各都市の貨物ターミナルが整備される予定です。
当初はアスワンが終点として想定されていましたが、その後、南部へ路線を延伸し、シャーク・エル・オワイナットや隣国スーダンのワジハルファへ向かう区間の建設が計画されています。
第3期路線:
第2期路線が経由するルクソールと紅海沿岸のサファガを結ぶ、全長約225kmの路線。
旅客輸送に加えて、サファガ港と内陸都市間の貨物輸送効率を向上させることが目的です。

導入予定の車両

エジプト高速鉄道には、シーメンスが展開する以下の最新鋭車両が導入される予定です。2023年以降、順次生産が行われています。旅客用車両は日中、貨物用車両は夜間に運行されます。

ヴェラロ（Velaro）:
世界各地で導入されている高速鉄道用電車。
エジプト向け車両は8両編成で、営業最高速度は230km/h。
長距離輸送に用いられ、41編成が導入されます。
デジロHC（Desiro HC）:
中間に2階建て車両を連結する地域輸送用電車。
エジプト向けに4両編成で、94編成が製造されます。
営業最高速度は160km/hが想定されています。
ベクトロン（Vectron）:
貨物列車の牽引に用いられる電気機関車。
* 41両が導入される予定で、営業最高速度は120km/hです。

この高速鉄道プロジェクトは、エジプトの経済発展を支え、人々の移動をより快適にする重要な役割を果たすことが期待されています。

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