ETCS

ETCS (European Train Control System) について

ETCS（欧州列車制御システム）は、ヨーロッパの鉄道における信号システムを含む統一列車制御システムです。欧州連合（EU）が主導するERTMS（European Rail Traffic Management System：欧州鉄道交通管理システム）の一部として位置づけられています。

背景

ヨーロッパの鉄道は、各国が独自に発展させてきたため、車両や線路の規格、電化方式、信号システムなど、多くの点で国ごとに違いがあります。国際列車は国境を越える際に機関車の付け替えが必要で、時間とコストがかかるという課題がありました。

そこで、ヨーロッパでは鉄道の相互運用性を高めるため、機関車や電車などの規格共通化や、複数の電源方式に対応した車両の開発が進められました。特に信号システムは国ごとに大きな違いがあり、共通化が急務でした。1990年代前半から、国際[[鉄道連合]]（UIC）が中心となり、ヨーロッパ統一信号システムの仕様策定と開発が始まり、これがETCSへと繋がりました。

歴史

1980年代末まで、各国の鉄道機関は独自の保安システムを改善・構築していました。しかし、列車の国境滞留時間と費用を減らすため、1990年代初頭に汎ヨーロッパの鉄道保安システムの開発が始まりました。

1989年、EUの交通大臣たちが汎ヨーロッパ高速鉄道網の基本計画を立てる中で、「欧州列車制御システム」の概念が提唱されました。1991年には、鉄道会社と産業界がETCSを新しい列車制御システムとして開発する意向を示しました。1995年にはERTMSの概念が登場し、技術仕様の適用を規定したEU国家調達法により開発が進められました。

1996年の指令で、高速鉄道システムに必要な技術仕様が定められ、ETCSは自動列車保安システムとして位置づけられました。その後、欧州鉄道研究機関が技術仕様案を作成し、各鉄道機関や産業界が協力して開発を進めました。

1999年以降、ETCSの試験が各国で開始され、2002年にはレベル2の装置が実用化されました。2005年には、EU委員会と鉄道関連団体がERTMSとETCSの導入に関する覚書に署名し、2007年には多くの路線と車両にETCSが導入されました。2013年には34か国で導入・計画が進められ、2017年には各国のETCS置き換え計画の提出が義務付けられました。

ETCSの動作と構造

ETCSは、列車の速度監視や、路線上の適合性、運行規則の遵守を監視します。システムは運行許可指令に基づき動作し、情報はユーロバリーズやGSM-R送受信機を通じて伝達されます。車上装置は情報をチェックし、危険時には自動で列車を停止させます。

ETCSは、35個の国家別パラメーター値を設定することで、各国の異なる要件に対応できます。構成要素としては、ユーロバリーズ（地上子）、車上装置、地上無線基地局（RBC）、ユーロループ、GSM-Rモデムがあります。

ユーロバリーズ：点制御方式の地上装置で、固定情報や流動情報を伝達します。
車上装置：情報を処理し、運転士に表示します。
RBC：動的・静的な情報を基に走行許可を出す無線基地局です。
ユーロループ：レベル1で信号変化を伝える半連続情報伝達システムです。
GSM-Rモデム：必要に応じて情報伝達に利用されます。

ETCSのレベル

ETCSには、地上装置と車上装置の相互作用により定義される複数の「レベル」があります。上位レベルは下位レベルの機能を全て含み、異なるレベル間での相互運用性が確保されています。

ETCS Level 0

ETCSを搭載した車両が、非対応の路線を走行する状態です。車上装置は最高速度の監視のみを行い、運転士が地上信号を監視します。

ETCS Level STM

既存の信号保安装置とETCS車上装置を接続し、情報を読み替えて動作させるレベルです。既存システムからETCSへの移行に用いられます。近年ではNTC（National Train Control）として表示されます。

ETCS Level 1

地車間通信にトランスポンダ（地上子）を利用する方式で、日本のATS-Pに相当します。地上と車上はユーロバリーズを介して通信し、列車の位置は軌道回路で検出します。GSM-Rの活用はベースライン3以降に可能となりました。

ETCS Level 2

車両とRBC間の通信にデジタル無線（GSM-R）を利用する方式で、日本のデジタルATCに相当します。列車の位置は車上で検出され、ユーロバリーズは位置情報の補正に使用します。

ETCS Level 3

ETCS Level 2の上位互換システムで、日本のATACSに相当します。列車制御に必要な情報は全て車両側に搭載し、移動閉塞を実現します。軌道回路や地上の信号機は不要になります。仮想閉塞区間を導入した「ETCSハイブリッドレベル3」や低コストの「ERTMS Regional」も開発されています。

ETCSのモード

ETCSモードは、車上装置の現在の運用状態を示す記号で、運転台のディスプレイに表示されます。モードはレベルと関連して標準化されており、レベルによって活用されるモードが異なります。

ヨーロッパの採用路線

ETCSはヨーロッパの多くの路線で採用されており、高速鉄道を中心に導入が進んでいます。

業界団体UNISIG

UNISIGは、ETCSシステムの開発・製作・販売・サポートを行う業界団体です。アルカテル、アルストム、アンサルド、インベンシス、シーメンス、ボンバルディアの6社が加盟しています。

日本国内の対応

国際[[鉄道連合]]（UIC）は、ETCS/ERTMSを信号保安システムの世界標準にしようとしており、日本の鉄道技術への影響が懸念されています。JR東日本は、これに対抗してATACSの標準化を進めようとしています。一方、日立製作所はETCS互換の保安装置を開発し、実証実験を行っています。

ヨーロッパ以外の展開と国際規格化

アジアでは、中国、インド、台湾、韓国、トルコなどでETCSの導入が進んでいます。中国では、広州～深圳～香港の高速旅客専用線でETCSが採用されています。

参考文献

Institution of Railway Signal Engineers, ed (2011). ETCS for Engineers. Hamburg: Eurailpress.
UIC, ed (2009). Compendium on ERTMS. European Rail Traffic Management System. Hamburg: Eurailpress.

関連項目

ERTMS
GSM-R
ATS
ATC

外部リンク

ERTMS
* UICのETCSウェブサイト

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