エステラーゼ
エステラーゼは、エステル結合を加水分解（水との反応によって分解）する化学反応を触媒する酵素の総称です。この反応により、エステルは対応する酸とアルコールに分解されます。生体内に存在するエステラーゼは、触媒する基質の種類、タンパク質の立体構造、あるいは細胞内での機能に応じて非常に多様なサブタイプに分類されます。
酵素の国際的な分類体系であるEC分類（Enzyme Commission number）において、エステラーゼの多くは加水分解酵素（ECクラス3）の中のEC 3.1（エステル結合に作用する加水分解酵素）に位置づけられます。このEC 3.1のカテゴリーは、さらに分解するエステル結合の種類によって細分化されており、様々な重要な酵素を含んでいます。
以下に、EC 3.1の主要なサブカテゴリーと、それぞれの代表的なエステラーゼの例を挙げます。
EC 3.1.1 (カルボン酸エステラーゼ)
脂肪酸とアルコールがエステル結合した、いわゆる「エステル」を分解します。このグループには様々な酵素が含まれます。
アセチルエステラーゼ (EC 3.1.1.6): アセチル基を含むエステルを選択的に分解します。
コリンエステラーゼ: コリンエステル、特に神経伝達物質であるアセチルコリンの分解に関わる重要な酵素群です。
アセチルコリンエステラーゼ: 神経シナプスなどで迅速にアセチルコリンを加水分解し、神経伝達のシグナルを終了させる役割を担います。
シュードコリンエステラーゼ（ブチリルコリンエステラーゼとも呼ばれる）: 血清や肝臓などに主に存在し、アセチルコリンだけでなく幅広いコリンエステルを分解します。薬物の代謝などに関与することが知られています。
ペクチンエステラーゼ (EC 3.1.1.11): 植物の細胞壁構成成分であるペクチンのメチルエステルを加水分解し、ペクチン酸とメタノールを生成します。フルーツジュースの製造過程で、果汁の粘度を下げるなど、清澄化に利用されることがあります。
EC 3.1.2 (チオールエステラーゼ)
カルボン酸とチオール（SH基を持つ化合物）が形成するチオエステル結合を加水分解します。脂肪酸合成やタンパク質の翻訳後修飾など、生体内の多様な代謝経路や機能に関与しています。
チオエステラーゼ
ユビキチンC末端ヒドロラーゼL1 (UCH-L1): ユビキチンとタンパク質のリジン残基の間に形成されるチオエステル様結合（イソペプチド結合）を切断する酵素で、タンパク質の分解経路に関わります。
EC 3.1.3 (リン酸モノエステラーゼ)
リン酸とアルコールがエステル結合したリン酸モノエステルを加水分解し、リン酸イオンとアルコールを生成します。
ホスファターゼ (EC 3.1.3.x): 生体内の様々な分子（タンパク質、核酸、脂質、糖など）からリン酸基を取り除く（脱リン酸化）働きを持ちます。この反応は、細胞機能の調節、シグナル伝達、エネルギー代謝において極めて重要です。アルカリホスファターゼは、その名の通りアルカリ条件下で活性が高く、広範囲の基質に作用する代表的なホスファターゼです。
フルクトースビスホスファターゼ (EC 3.1.3.11): 糖新生（グルコースを合成する代謝経路）において、フルクトース-1,6-ビスリン酸をフルクトース-6-リン酸に変換する重要な酵素です。
EC 3.1.4 (ホスホジエステラーゼ)
リン酸とアルコールが2箇所でエステル結合したリン酸ジエステル結合を加水分解します。このグループには、細胞内シグナル伝達に関わる環状ヌクレオチド（cAMPやcGMP）を分解する酵素や、核酸のリン酸ジエステル骨格を切断するヌクレアーゼなどが含まれます。
ホスホジエステラーゼ: 細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たすセカンドメッセンジャーである環状AMP (cAMP) や環状GMP (cGMP) を不活化することで、シグナル伝達経路の終結や強度調節に関わります。5型cGMPホスホジエステラーゼ（PDE5）は特定の医薬品（例: シルデナフィル）の標的として知られています。
EC 3.1.5 (トリホスホモノエステラーゼ)
EC 3.1.6 (スルファターゼ)
硫酸基とアルコールがエステル結合した硫酸エステルを加水分解します。細胞外マトリックス成分や脂質の代謝などに関与します。
EC 3.1.7 (ジホスホモノエステラーゼ)
EC 3.1.8 (ホスホトリエステラーゼ)
EC 3.1.4 および EC 3.1.11 - 3.1.15 (ヌクレアーゼ)
核酸（DNAやRNA）の骨格を形成するリン酸ジエステル結合を切断する酵素群です。核酸の複製、修復、転写、分解など、遺伝情報の維持と発現に不可欠な役割を果たします。
エキソヌクレアーゼ: 核酸鎖の末端からヌクレオチドを一つずつ切り離します。EC 3.1.11（エキソデオキシリボヌクレアーゼ、5′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.13（エキソリボヌクレアーゼ、5′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.14（エキソリボヌクレアーゼ、3′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.15（リボおよびデオキシヌクレオチドの両方に作用するエキソヌクレアーゼ）などがあります。
* エンドヌクレアーゼ: 核酸鎖の内部にあるリン酸ジエステル結合を切断します。DNAのみに作用するエンドデオキシリボヌクレアーゼ、RNAのみに作用するエンドリボヌクレアーゼ、両方に作用するエンドヌクレアーゼなどが存在します。
このように、エステラーゼは化学的な定義としては単一の反応を触媒しますが、生体内では極めて多様な分子を基質とし、エネルギー代謝、シグナル伝達、遺伝子発現調節、神経機能、解毒、物質輸送など、生命活動の根幹に関わる幅広い機能を発揮しています。特定の酵素の機能不全は様々な疾患の原因となることもあり、診断や治療の観点からも研究が進められています。
酵素の国際的な分類体系であるEC分類（Enzyme Commission number）において、エステラーゼの多くは加水分解酵素（ECクラス3）の中のEC 3.1（エステル結合に作用する加水分解酵素）に位置づけられます。このEC 3.1のカテゴリーは、さらに分解するエステル結合の種類によって細分化されており、様々な重要な酵素を含んでいます。
以下に、EC 3.1の主要なサブカテゴリーと、それぞれの代表的なエステラーゼの例を挙げます。
EC 3.1.1 (カルボン酸エステラーゼ)
脂肪酸とアルコールがエステル結合した、いわゆる「エステル」を分解します。このグループには様々な酵素が含まれます。
アセチルエステラーゼ (EC 3.1.1.6): アセチル基を含むエステルを選択的に分解します。
コリンエステラーゼ: コリンエステル、特に神経伝達物質であるアセチルコリンの分解に関わる重要な酵素群です。
アセチルコリンエステラーゼ: 神経シナプスなどで迅速にアセチルコリンを加水分解し、神経伝達のシグナルを終了させる役割を担います。
シュードコリンエステラーゼ（ブチリルコリンエステラーゼとも呼ばれる）: 血清や肝臓などに主に存在し、アセチルコリンだけでなく幅広いコリンエステルを分解します。薬物の代謝などに関与することが知られています。
ペクチンエステラーゼ (EC 3.1.1.11): 植物の細胞壁構成成分であるペクチンのメチルエステルを加水分解し、ペクチン酸とメタノールを生成します。フルーツジュースの製造過程で、果汁の粘度を下げるなど、清澄化に利用されることがあります。
EC 3.1.2 (チオールエステラーゼ)
カルボン酸とチオール（SH基を持つ化合物）が形成するチオエステル結合を加水分解します。脂肪酸合成やタンパク質の翻訳後修飾など、生体内の多様な代謝経路や機能に関与しています。
チオエステラーゼ
ユビキチンC末端ヒドロラーゼL1 (UCH-L1): ユビキチンとタンパク質のリジン残基の間に形成されるチオエステル様結合（イソペプチド結合）を切断する酵素で、タンパク質の分解経路に関わります。
EC 3.1.3 (リン酸モノエステラーゼ)
リン酸とアルコールがエステル結合したリン酸モノエステルを加水分解し、リン酸イオンとアルコールを生成します。
ホスファターゼ (EC 3.1.3.x): 生体内の様々な分子（タンパク質、核酸、脂質、糖など）からリン酸基を取り除く（脱リン酸化）働きを持ちます。この反応は、細胞機能の調節、シグナル伝達、エネルギー代謝において極めて重要です。アルカリホスファターゼは、その名の通りアルカリ条件下で活性が高く、広範囲の基質に作用する代表的なホスファターゼです。
フルクトースビスホスファターゼ (EC 3.1.3.11): 糖新生（グルコースを合成する代謝経路）において、フルクトース-1,6-ビスリン酸をフルクトース-6-リン酸に変換する重要な酵素です。
EC 3.1.4 (ホスホジエステラーゼ)
リン酸とアルコールが2箇所でエステル結合したリン酸ジエステル結合を加水分解します。このグループには、細胞内シグナル伝達に関わる環状ヌクレオチド（cAMPやcGMP）を分解する酵素や、核酸のリン酸ジエステル骨格を切断するヌクレアーゼなどが含まれます。
ホスホジエステラーゼ: 細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たすセカンドメッセンジャーである環状AMP (cAMP) や環状GMP (cGMP) を不活化することで、シグナル伝達経路の終結や強度調節に関わります。5型cGMPホスホジエステラーゼ（PDE5）は特定の医薬品（例: シルデナフィル）の標的として知られています。
EC 3.1.5 (トリホスホモノエステラーゼ)
EC 3.1.6 (スルファターゼ)
硫酸基とアルコールがエステル結合した硫酸エステルを加水分解します。細胞外マトリックス成分や脂質の代謝などに関与します。
EC 3.1.7 (ジホスホモノエステラーゼ)
EC 3.1.8 (ホスホトリエステラーゼ)
EC 3.1.4 および EC 3.1.11 - 3.1.15 (ヌクレアーゼ)
核酸（DNAやRNA）の骨格を形成するリン酸ジエステル結合を切断する酵素群です。核酸の複製、修復、転写、分解など、遺伝情報の維持と発現に不可欠な役割を果たします。
エキソヌクレアーゼ: 核酸鎖の末端からヌクレオチドを一つずつ切り離します。EC 3.1.11（エキソデオキシリボヌクレアーゼ、5′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.13（エキソリボヌクレアーゼ、5′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.14（エキソリボヌクレアーゼ、3′-ホスホモノエステルを生成）、EC 3.1.15（リボおよびデオキシヌクレオチドの両方に作用するエキソヌクレアーゼ）などがあります。
* エンドヌクレアーゼ: 核酸鎖の内部にあるリン酸ジエステル結合を切断します。DNAのみに作用するエンドデオキシリボヌクレアーゼ、RNAのみに作用するエンドリボヌクレアーゼ、両方に作用するエンドヌクレアーゼなどが存在します。
このように、エステラーゼは化学的な定義としては単一の反応を触媒しますが、生体内では極めて多様な分子を基質とし、エネルギー代謝、シグナル伝達、遺伝子発現調節、神経機能、解毒、物質輸送など、生命活動の根幹に関わる幅広い機能を発揮しています。特定の酵素の機能不全は様々な疾患の原因となることもあり、診断や治療の観点からも研究が進められています。
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