エゾサワスゲ

エゾサワスゲ (Carex viridula Michx.)

エゾサワスゲは1803年に命名されたカヤツリグサ科スゲ属の一種で、日本では主に北海道及び中部以北の本州で見られています。特徴的なのは、その小さな株を形成し、金平糖のような可愛らしい小穂を茎の先に密につける様子です。

特徴

この植物は小型の多年生草本で、草丈は10～30cmほどです。根茎は短く、根からは茎や葉が束のように生えます。葉は硬めで幅が1.5～2.5mmほどで、一般的には花茎よりも短く、黄緑色をしています。また、茎は3稜形をしており、滑らかな表面を特徴としています。基部は淡褐色の鞘状葉に覆われています。

エゾサワスゲの花期は6月から7月にかけてで、花茎の先端には3～5個の小穂が形成されます。頂部にある小穂は雄性であり、側に位置する小穂は雌性です。小穂は柄を持たず、茎の先端に集まる形で着きますが、最下の雌小穂は少し離れて生じることもあり、こちらには短い柄が付くことがあります。雌小穂の基部には苞葉が存在し、特に最下のものは非常に長く、花序よりも長く伸びることがあります。

雄小穂は7～15mmの長さで、褐色を帯びた雄花鱗片を持ち、形に変異が見られます。雌小穂は長楕円形で、長さは5～10mmほどです。雌花鱗片は約2mmで広卵形、先端は尖っています。また、果胞は広卵形で、長さは2.5～3mmと雌花鱗片よりも長いです。果胞の表面には隆起する細脈が見られます。

和名の「エゾサワスゲ」は、サワスゲに由来しており、これは自然環境で見かけるヒメシラスゲに似た特徴を持っています。特に、根茎が短く、頂小穂が雄性で側小穂が雌性である点が、分類の要点となります。

分布と生育環境

この植物は、日本では北海道と本州の中部以北に限られ、国外では北アメリカ、カムチャッカ、サハリン、千島に自生しています。エゾサワスゲは少し湿った草原に生育することがあるものの、その存在は非常に稀です。

分類

勝山（2015）は、この種の特性を元にエゾサワスゲをエゾサワスゲ節（Sect. Ceratocystis）に分類し、日本ではこの一種のみが含まれるとしています。この節は、温帯域に主に分布する小さな群れで、種数においては6から19という幅があります。

ヒメシラスゲとエゾサワスゲは一見似ているものの、前者は匍匐茎を伸ばし、まとまった株を作らない点で区別されます。

保護状況

環境省のレッドデータブックによれば、エゾサワスゲは準絶滅危惧種に指定されています。地域別に見ると、長野県では絶滅危惧I類、岩手県では絶滅危惧II類、青森県では準絶滅危惧種として分類されています。特に岩手県と青森県での標本記録が確認されており、この地域での分布は非常に限られています。

衛星調査やフィールド調査により、この植物が日本全体で確認された場所はわずか16メッシュにすぎず、それが本州では青森県と福島県に限られていることが示されています。北海道内でも特に指定はなく、記録されている範囲は広いですが、ほぼ太平洋側に集中していることが特徴的です。

参考文献

• - 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』(2017)、北隆館
• - 勝山輝男、『日本のスゲ 増補改訂版』(2015)、文一総合出版
• - 星野卓二他、『日本カヤツリグサ科植物図譜』(2011)、平凡社
• - 宮澤誠治、高橋英樹、「北海道産スゲ属植物の地理分布パターン解析への試み」(2007)、北方山草, (24), p.71-76.
• - スゲの会、『正木智美編 日本産スゲ属植物分布図集』(2018)、スゲの会
• - Pedro Jimènez-Mejías et.al. 2012, Systematics and Taxonoy of Carex sect. Ceratocyctis (Cyperaceae) in Europe: A Morecular and Cytogenetic Approach. Systematic Botany 37(2): pp.382-398

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