エドゥアルト・シュトイアーマン

エドゥアルト・シュトイアーマン（Eduard Steuermann, 1892年 6月18日 – 1964年 11月11日）は、20世紀前半から中期にかけて活躍したユダヤ系ポーランド人の卓越したピアニストであり、作曲家でもあった。アメリカ合衆国へ渡った後は、エドワード（Edward）という名でも知られるようになった。彼の生涯は、ヨーロッパにおける新音楽運動の中心から、新大陸での教育と演奏活動へと移り変わり、多くの音楽家に影響を与えた。

生涯と教育

シュトイアーマンは、オーストリア＝ハンガリー帝国領ガリツィア地方のサンボル（現在のウクライナ領サンビル）に生を受けた。音楽教育は、まずルヴフでヴィレーム・クルツにピアノの手ほどきを受け、その後ドイツのベルリンへ移り、当時最も影響力のあるピアニストの一人であったフェルッチョ・ブゾーニのもとで研鑽を積んだ。作曲の分野では、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』で知られるエンゲルベルト・フンパーディンク、そして20世紀音楽に革命をもたらしたアーノルト・シェーンベルクに師事した。特にシェーンベルクとの出会いは、彼のその後の音楽人生に決定的な影響を与えることとなる。

シェーンベルクとの緊密な関係

シュトイアーマンのキャリアは、師であるアーノルト・シェーンベルクとの深いつながり抜きには語れない。彼はシェーンベルクが作曲した革新的な作品の数々において、ピアノ・パートの初演を任された信頼厚い演奏家だった。例えば、表現主義音楽の金字塔とされる朗唱と室内アンサンブルのための『月に憑かれたピエロ』や、後期の重要な作品である『ピアノ協奏曲』の初演舞台には、シュトイアーマンの姿があった。ウィーン時代には、シェーンベルクが主催した『ウィーン私的演奏協会』でピアニストとして積極的に活動し、難解とされる現代音楽の普及に尽力した。また、ウィーン音楽院でも教鞭を執り、教育者としての第一歩を踏み出した。シェーンベルクの初期の傑作である弦楽六重奏曲『浄夜』をピアノ三重奏用に編曲するなど、作曲家としても師の音楽への深い理解を示している。こうした長年の貢献と緊密な協力関係は高く評価され、1952年には国際現代音楽協会よりシェーンベルク・メダルを授与されている。

アメリカへの移住と晩年

1938年、ヨーロッパの政治情勢が緊迫する中、シュトイアーマンはアメリカ合衆国への移住を決断する。新天地アメリカでは、演奏家としての活動を続けながら、教育者としても重要な役割を担った。特に1950年代には、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの作品を中心としたリサイタルで高い評価を獲得し、アメリカ国内での名声を確立した。彼のベートーヴェン解釈は、独自の深い洞察と表現力で知られた。1952年からは、ニューヨークにある世界的に有名な音楽学校、ジュリアード音楽学校で教授として迎えられ、亡くなる1964年まで後進の指導に情熱を注いだ。彼の教育者としての影響力は非常に大きく、アルフレート・ブレンデル、ヤコブ・ギンペル、ラッセル・シャーマンなど、後に国際的に活躍する数多くの著名なピアニストたちが彼の門下から巣立っている。

エドゥアルト・シュトイアーマンは、1964年 11月11日にニューヨークでその生涯を閉じた。彼の死後、1989年にはネブラスカ大学出版局から、未亡人であるピアニストのクララ・シルヴァースや作曲家ガンサー・シュラーらの協力・編集により、彼の著作を集めた『The Not Quite Innocent Bystander: Writings of Edward Steuermann』が出版された。この著作集からは、彼の音楽に対する深い思考や芸術観を垣間見ることができる。

シュトイアーマンは、単にシェーンベルク楽派の忠実な擁護者であっただけでなく、自立した思想を持つ演奏家、作曲家、そして教育者として、20世紀の音楽史において確固たる地位を占めている。彼の残した録音や教育を通じて広まった思想は、今なお多くの音楽家に影響を与え続けている。

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