エドセル・フォード

エドセル・ブライアント・フォード

エドセル・ブライアント・フォード（1893年11月6日 - 1943年5月26日）は、アメリカ合衆国の実業家であり慈善家です。自動車産業の巨人ヘンリー・フォードとその妻クララ・ジェーン・ブライアント・フォードの一人息子として生まれ、父の後を継いでフォード・モーター・カンパニーの社長を1919年から1943年に亡くなるまで務めました。

幼少期と家族

1893年11月、デトロイトで生を受けたエドセルは、父ヘンリーの幼馴染にちなんで名付けられました。フォード家の一人息子として、彼は幼い頃から家業である自動車製造に触れて育ち、将来の後継者としての道を歩みます。1916年には、デパート経営者の姪であるエレノア・クレイと結婚し、ヘンリー2世、ベンソン、ジョセフィン、ウィリアムの4人の子供をもうけました。夫妻はデトロイトに居を構え、家族生活を送りました。

学業ではコネチカット州のホッチキス・スクールとデトロイト・ユニバーシティ・スクールで学びました。フォード家はこれらの学校に多額の寄付を行い、ホッチキス・スクールの図書館は現在、エドセル・フォード記念図書館と名付けられています。

フォード・モーター社長として

1915年に父の秘書となった後、1919年にフォード・モーターの社長に就任したエドセルは、自動車に対する独自のビジョンを持っていました。彼は、当時すでに陳腐化していた古典的なT型フォードに代わる、より刺激的で現代的なデザインの車を開発したいと熱望していました。しかし、実質的な社主として強大な権力を握り続けていた父ヘンリーは保守的であり、新型車導入や技術革新に対してしばしば抵抗しました。エドセルは市場の変化を的確に捉えていたものの、父の説得には多くの苦労を伴いました。

市場競争の激化によりT型の販売が低迷すると、新型車開発は不可避となります。エドセルは、1927年に登場したT型の後継モデルであるモデルAの開発に深く関わりました。父ヘンリーが機械的な信頼性に注力する一方で、エドセルはデザイナーの協力を得て、当時のリンカーン車に影響を受けた洗練されたスタイリングを実現しました。また、T型では後輪のみだったブレーキを4輪機械式ブレーキに、遊星歯車式2速ミッションを擦動ギア式3速/4速トランスミッションに変更するなど、同業他社に遅れをとっていた主要な技術を導入するよう父を説得しました。モデルAは商業的に成功し、その近代化はフォード社のブランドイメージ向上に貢献しました。

エドセルはさらに、会社のラインナップ拡充にも取り組みました。1938年には中級車市場向けのマーキュリー部門を設立・命名し、フォード社の中核ブランドとしました。また、1922年のリンカーン買収後、彼は量産型高級車リンカーン・ゼファーと、それを基にした高級パーソナルカー、リンカーン・コンチネンタルの開発・発売を主導しました。リンカーン車では、デザイナーと共に抑制された上品なデザインポリシーを確立し、後のリンカーンのブランドイメージに大きな影響を与えました。これらの取り組みにより、フォード社は中級・高級車市場にも進出し、フルラインメーカーとしての基盤を確立しました。

その他、エドセルは全鋼製ボディや油圧ブレーキといった、当時としては先進的な技術の量産車への導入を推進し、フォード車の安全性能と快適性を向上させました。また、フォードの海外生産拠点を大幅に強化するなど、グローバル展開にも力を入れました。社長としてのキャリアを通じて、エドセルは常に父ヘンリーからの不合理な干渉や公衆の面前での叱責に悩まされましたが、多くの重要な改革を断行し、会社の近代化と将来に向けた基盤構築に貢献しました。

第二次世界大戦と死

第二次世界大戦中、フォード・モーターはアメリカの戦時生産体制において極めて重要な役割を担いました。エドセルは会社を率いて、特に巨大なウィローラン工場でのB-24爆撃機の大量生産を推進しました。この重責とストレスが、彼の健康を損ね、病気の原因になったとも言われています。

エドセル・フォードは1943年5月26日、49歳の若さで胃癌とブルセラ症により、グロース・ポイント・ショアーズにある自宅で亡くなりました。彼の無議決権株式は、父と共に設立したフォード財団に遺贈されました。社長の座は一時父ヘンリーが復帰した後、長男のヘンリー・フォード2世に引き継がれました。エドセルの死後、子供たちはそれぞれフォード・モーターの株式を相続し、息子たちは全員家業に加わりました。

慈善活動と遺産

エドセル・フォードは、デトロイトの歴史において重要な芸術の後援者としても名を残しています。デトロイト芸術委員会の会長として、彼はディエゴ・リベラにデトロイト美術館（DIA）の有名な壁画「デトロイトの産業」の制作を依頼しました。また、初期のアフリカ美術コレクターでもあり、彼の収集品はDIAのコレクションの核となっています。彼の死後も、フォード家による芸術支援は続けられました。

さらに、彼は探検家リチャード・バード提督の極地探検に資金を提供しました。1926年の北極点飛行や南極大陸探検を支援し、南極大陸のフォード山脈には彼の功績を称えてその名が冠されています。

デトロイト都市圏を走るインターステート94号線は、エドセル・フォード・フリーウェイと命名され、彼の名を今に留めています。

1957年、フォード・モーターはエドセルの名を冠した新自動車部門を設立しましたが、商業的には大きな失敗に終わり、わずか数年で廃止されるという皮肉な結果となりました。

エドセルと妻エレノアが暮らしたミシガン州グロース・ポイント・ショアーズの自宅「ゴークラー・ポイント」は、建築家アルバート・カーンと景観デザイナーのイェンス・イェンセンの設計によるものです。湖畔に広がるこの邸宅と庭園は、エレノアの希望により現在一般公開されており、フォード家の美術品コレクションや歴史的な景観を楽しむことができます。この敷地はアメリカ合衆国国家歴史登録財にも指定されています。

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