エピメテウス (衛星)

土星の衛星エピメテウス

エピメテウスは、土星の第11番目の衛星であり、同じく土星の衛星であるヤヌスと特異な軌道共有をしていることで知られています。

発見の経緯

発見とヤヌスの混同

エピメテウスの発見は、ヤヌスとの軌道共有という特殊な状況から、複雑な経緯を辿りました。
1966年12月15日、オドゥワン・ドルフュスが新たな衛星と思われる天体を発見しました。ドルフュスはその後も観測を続け、この天体を「ヤヌス」と名付けることを提案しました。

しかし、その3日後の1966年12月18日には、リチャード・ウォーカーが別の天体を発見し、これが後にエピメテウスであることが判明します。当時、同じ軌道上に2つの衛星が存在するという概念がなかったため、ウォーカーが発見した天体は、ドルフュスが発見した「ヤヌス」と同一のものだと考えられていました。

1978年になり、Stephen M. Larson と John W. Fountain が、1966年の一連の観測結果が、実は非常に近い軌道にある別の天体によって説明できることを示しました。そして1980年にボイジャー1号が観測を行い、この説が裏付けられ、ウォーカー、ラーソン、ファウンテンがエピメテウスの共同発見者として認められました。

その他の「発見」

1979年から1980年にかけて、エピメテウスは複数の観測者によって何度も「発見」されました。パイオニア11号も1979年にエピメテウスと思われる天体を撮影していますが、この時の観測データは不確実性が高く、軌道を正確に特定することはできませんでした。

1980年2月26日には、ハワイ大学のデール・クルックシャンクが別の衛星を発見し、S/1980 S 3という仮符号が与えられましたが、後にこれはリチャード・ウォーカーが発見したエピメテウスと同一であることが確認されました。クルックシャンクもエピメテウスの発見者として認められています。

その他、S/1980 S 4, S/1980 S 5, S/1980 S 8, S/1980 S 11, S/1980 S 15, S/1980 S 16, S/1980 S 17, S/1980 S 19 という仮符号が与えられた天体も、すべてエピメテウスと同一であると判明しています。

名称

エピメテウスという名前は、ギリシャ神話に登場するティーターンの一人、エピメーテウスに由来します。エピメーテウスは、同じく土星の衛星の名前の由来となったプロメーテウスの弟です。

1983年9月30日、エピメテウスは正式に命名され、同時にSaturn XIという確定番号が与えられました。発見当初はヤヌスと同一視されていたため、非公式にヤヌスと呼ばれていたこともあります。また、複数の仮符号も持っています。

ヤヌスとの軌道共有

エピメテウスとヤヌスは、非常に特殊な軌道共有関係にあります。2つの衛星の軌道半径の平均的な差はわずか50kmで、これは衛星の直径よりも小さい距離です。

内側の軌道を周回する衛星は、外側の衛星よりも公転速度が速いため、次第に外側の衛星に追いついていきます。通常であれば衝突するところですが、2つの衛星が数万kmまで近づくと、重力相互作用によって運動量の交換が起こり、内側の衛星は軌道半径が大きくなり、外側の衛星は軌道半径が小さくなるという現象が起きます。その結果、2つの衛星は軌道を「交換」し、再び離れていきます。

この軌道交換は約4年ごとに発生し、エピメテウスとヤヌスは衝突することなく、安定した軌道を保っています。軌道交換の際、エピメテウスの軌道半径は約80km、ヤヌスの軌道半径は約20km変化します。この変化量が異なるのは、ヤヌスの方がエピメテウスよりも質量が大きく、軌道の変化の影響を受けにくいためです。

軌道力学的に見ると、この軌道交換は、エピメテウスとヤヌスが1:1の平均運動共鳴を起こしていることを示しています。土星を中心とした回転座標系で考えると、両者は馬蹄形軌道を往復しているように見えます。この馬蹄形軌道の先端で遭遇して運動量を交換し、軌道を交換するという現象が起きます。

物理的特徴

エピメテウスの表面には、直径30kmを超えるクレーターや、大小さまざまな尾根状の構造や溝が見られます。エピメテウスとヤヌスは、共通の母天体が破壊されて形成されたという説があります。もしそうであれば、この破壊は惑星・衛星形成の初期段階に発生したと考えられます。表面のクレーターから推定されるように、エピメテウスの表面は非常に古いと考えられています。

天体の大部分は氷でできていると考えられていますが、エピメテウスの平均密度は0.640g/cm³と氷の密度よりも低いため、エピメテウスは衝突で発生した破片が重力で緩く集まってできたラブルパイル天体であると考えられています。また、アルベドが高いことから、主成分が氷であると考えられています。

南極部分には、南半球全体に及ぶ衝突クレーターの痕跡と思われる特徴が見られ、南半球が潰れたような形状をしている原因である可能性があります。

エピメテウスの表面には、滑らかで暗い領域と、明るくわずかに黄色っぽい破砕された領域があります。暗い領域の物質は斜面を滑り落ちたもので、明るい領域よりも氷の含有量が少ない岩盤のような部分が見えているという説があります。

土星の環との関係

2006年、土星探査機カッシーニによる観測で、エピメテウスとヤヌスが公転する領域に薄い塵の環が存在することが確認されました。この環は、エピメテウスとヤヌスの表面への隕石衝突によって発生した塵が、公転軌道周辺に広がって形成されたと考えられています。

また、エピメテウスはヤヌスと共に、土星のA環の維持にも関与していることがわかっています。両者はA環からはやや離れているものの、7:6の軌道共鳴によってA環の明瞭な縁を形作っています。特に、質量の大きいヤヌスが内側の軌道にいる時に、この影響が顕著になります。

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