エフタル・サーサーン戦争 (484年)

484年のエフタル・サーサーン戦争

484年、中央アジアを舞台に、エフタルとサーサーン朝の間で激しい戦いが繰り広げられました。この戦いは、サーサーン朝の皇帝ペーローズ1世が自ら率いる大軍を率いてエフタルに侵攻したものの、エフタルの巧妙な戦略によってサーサーン朝軍が壊滅的な打撃を受け、ペーローズ1世自身も戦死するという、サーサーン朝にとって痛恨の敗北となりました。

背景

サーサーン朝では、皇帝ヤズデギルド2世の死後、後継を巡る争いが勃発しました。ホルミズド3世が即位するも、ミフラーン家の支援を受けた弟ペーローズが兄を倒し、ペーローズ1世として即位しました。この時、エフタルはペーローズ1世の即位を支援したとされています。

ペーローズ1世は即位後、西方の東ローマ帝国との協調路線を重視し、東方への軍事的な比重を高めました。466年にはキダーラ朝を破りバクトリアを奪還するなどの戦果を挙げましたが、その結果、バクトリアにはエフタルの勢力が拡大しました。ペーローズ1世は「エフタルの男色趣味」を理由にエフタルに宣戦布告し、エフタルとの戦いを開始しました。

しかし、エフタルとの戦いは当初からペーローズ1世にとって苦難の連続でした。2度（または3度）の戦役でペーローズ1世はエフタルの捕虜となり、多額の身代金を支払い、息子のカワードを人質として差し出すという屈辱を味わいました。この敗北は、ペーローズ1世がエフタルに対して再び戦いを挑む大きな動機となりました。

戦闘

484年、ペーローズ1世は身代金を完済しカワードが釈放されると、周囲の反対を押し切って10万規模の大軍を率いて北東へ進軍しました。エフタルの王アクシュンワルは、巧妙な落とし穴を仕掛け、サーサーン朝軍を待ち構えていました。ペーローズ1世は、この落とし穴にまんまと嵌まり、息子たちと共に戦死。サーサーン朝軍は壊滅し、ペーローズ1世の遺体さえ発見されませんでした。

影響

この戦いの結果、サーサーン朝は多数の王族や要人を失い、統治機構が麻痺状態に陥りました。エフタルは、その隙に乗じてサーサーン朝の領土への侵攻を開始し、ホラーサーン地方の主要都市を次々と支配下に置きました。カーレーン家のスフラー・カーレーンがエフタル王ホシュナヴァーズを撃退し、ペーローズ1世の息子カワードを救出するなどの抵抗もありましたが、エフタルの侵攻はしばらくの間、継続しました。

カワード1世はエフタルへの亡命後、エフタル王の娘と結婚し、エフタルの支援を受けて王位を奪還しました。その後、カワード1世の後を継いだホスロー1世は、突厥と同盟を結び、560年のブハラの戦いでエフタルを破り、567年までにエフタルを崩壊させました。

イルファン・シャヒードによれば、この戦争で使用された落とし穴戦術は、後の時代の戦いにも影響を与えたとされています。528年のタンヌリスの戦いではサーサーン朝が、530年のダラの戦いでは東ローマ帝国がこの戦術を採用し、勝利を収めました。また、627年のハンダクの戦いでは、ムハンマドを匿ったメディナが都市の周りに塹壕を掘り、メッカ連合軍を撃破しました。

484年のエフタル・サーサーン戦争は、サーサーン朝の衰退を招き、中央アジアの勢力図を大きく塗り替えることになった、歴史的な転換点と言えるでしょう。

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