ヤズデギルド2世

ヤズデギルド2世：サーサーン朝ペルシアの変革を志向した君主

ヤズデギルド2世（在位438年 - 457年）は、サーサーン朝ペルシアの君主であり、バハラーム5世の後を継いで王位に就きました。彼の治世は、サーサーン朝の歴史において重要な転換期と位置づけられます。それは、対外的な軍事衝突と、国内における宗教政策の変化という二つの側面において顕著でした。

東西との戦い

ヤズデギルド2世の時代、サーサーン朝は東西の二つの大国と対峙しました。西の東ローマ帝国とは、コーカサスの防衛を巡る問題から緊張関係にありました。387年の和平条約で合意された防衛協力のための資金援助が滞ったことがきっかけとなり、440年には両国間で戦端が開かれました。しかし、東ローマ帝国もヴァンダル族の侵攻に苦しんでおり、両国とも決定的な勝利を得るには至りませんでした。最終的には和平交渉が行われ、サーサーン朝がコーカサスの防衛を継続する代わりに、東ローマ帝国からの支払いを受け取ることで合意しました。

一方、東方ではエフタルとの間で長年にわたる戦いが繰り広げられました。エフタルは中央アジアを拠点とする遊牧民族であり、サーサーン朝の東部国境を脅かしていました。ヤズデギルド2世は、エフタルに対抗するために首都をニーシャープールに移し、防衛体制を強化しました。また、ダームガーンの市街を要塞化し、エフタルに対する重要な拠点としました。さらに、ヒルカニア北部に新たな州を設置し、防衛線の構築に努めました。

宗教政策と国内の動揺

ヤズデギルド2世の宗教政策は、彼の治世におけるもう一つの重要な側面です。彼はゾロアスター教を国教とするサーサーン朝において、非ゾロアスター教徒、特にキリスト教徒に対してゾロアスター教への改宗を強制しようとしました。この政策は、アルメニアやイベリアといった地域で反発を招き、各地で反乱が勃発しました。しかし、彼の政策の真意は単なる宗教的迫害ではなく、官僚制度の中央集権化を強化し、帝国全体の結束を強めることにあったとも考えられています。ゾロアスター教への信仰を、臣民に対する忠誠心の試金石として利用しようとした可能性があります。

しかし、ミフル・ナルセがアルメニアでゾロアスター教の一派であるズルワーン教の信仰を強制しようとしたことが大規模な反乱を引き起こしました。451年にはアヴァライルの戦いが発生し、サーサーン朝軍が勝利したものの、多くの犠牲者を出すこととなりました。その後、ヤズデギルド2世は迫害を終わらせましたが、国内の緊張状態は依然として続きました。

カイの称号と帝国のイデオロギー

ヤズデギルド2世は、サーサーン朝の君主として初めて「カイ」の称号を用いたことでも知られています。この称号は、アヴェスターに登場する神話上の王朝、カヤーン朝との繋がりを示すものであり、彼の治世における帝国のイデオロギーの変化を反映しています。サーサーン朝の関心が西方から東方へと移るにつれて、エフタルとの戦いは、カヤーン朝とトゥーラーンの敵対者との神話的な抗争を想起させました。そのため、東方への関心の高まりとともに、神話的な英雄王たちが用いた「カイ」の称号が採用されたと考えられています。

死と後継者争い

457年、ヤズデギルド2世が死去すると、彼の息子であるホルミズド3世とペーローズ1世の間で王位継承争いが勃発しました。ホルミズド3世が先に王位を継承しましたが、ペーローズ1世は有力者の支援を得て反乱を起こし、最終的に王位を奪取しました。この内紛は、サーサーン朝の国力を弱める一因となりました。

ヤズデギルド2世の治世は、サーサーン朝ペルシアにとって、内外の危機に直面しながらも、中央集権化を進め、新たなイデオロギーを模索した時代でした。彼の政策は賛否両論ありましたが、その後のサーサーン朝の歴史に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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