エブロ川河口の海戦

エブロ川河口の海戦は、第二次ポエニ戦争中の紀元前217年春、イベリア半島のエブロ川河口で繰り広げられた海戦です。カルタゴのヒミルコ率いる40隻の五段櫂船と、ローマのグナエウス・コルネリウス・スキピオ・カルウス率いる55隻の艦隊が激突しました。

背景

紀元前218年のキッサの戦いでグナエウス・スキピオが勝利して以来、ローマはエブロ川以北のイベリア半島で勢力を拡大していました。タラッコ（現在のタラゴナ）を拠点に、エブロ川以南のカルタゴの拠点を繰り返し襲撃していました。一方、カルタゴのハスドルバル・バルカは、イベリアで兵を召集し軍を拡大していました。

紀元前218年にハンニバルがイベリア半島を出発した際、カルタゴ海軍は五段櫂船32隻と三段櫂船5隻を保有していました。ハスドルバルは紀元前218年の冬に五段櫂船10隻を新たに建造し、乗組員の訓練を行いました。そして紀元前217年の春、エブロ川以北のローマ支配地域に対して陸海合同遠征軍を組織しました。ハスドルバル自身が陸軍を指揮し、海軍は副官のヒミルコに指揮権を与えました。

グナエウス・スキピオは、カルタゴ軍の兵力が自軍を上回っていることを懸念し、海戦で決着をつけることを決意しました。ローマ海軍はイベリア侵攻時に60隻の五段櫂船を有していましたが、ローマへ25隻を送り返したため、現有数は35隻に減少していました。しかし、ギリシャの同盟都市であるマッシリア（現在のマルセイユ）が20隻をローマ軍に提供しました。

戦闘の経過

カルタゴ海軍はエブロ川に到着後、河口に停泊しました。艦隊は十分な食料の運搬能力を持たなかったため、乗組員は食料を調達するために上陸しました。ハスドルバルはローマ陸軍の動きを探るための偵察隊を派遣しましたが、ヒミルコはローマ海軍の偵察のための偵察艦を派遣しませんでした。

停泊中のカルタゴ艦隊にマッシリアの船2隻が接近し、気づかれずに離脱してグナエウス・スキピオにカルタゴ艦隊の到着を知らせました。ローマ艦隊はタラッコを出帆しており、グナエウス・スキピオが警報を受け取ったときには、カルタゴ艦隊の北方10マイルに位置していました。グナエウス・スキピオは精鋭部隊を乗せ、カルタゴ艦隊攻撃のために出撃しました。

ハスドルバルが派遣した陸軍の偵察隊はローマ艦隊の接近を確認し、狼煙を使ってカルタゴ艦隊に警告を発しました。しかし、多くの艦船の乗組員は上陸しており、慌てて乗組員を戻してバラバラに出帆しました。各艦の連携はほとんど取れておらず、乗組員が不足している艦もありました。ヒミルコが出帆すると、ハスドルバルは陸軍兵を海岸に集めて喚声をあげさせ、海軍を鼓舞しました。

ローマ軍は奇襲に成功し、さらに数的優位（55隻対40隻）も活かしてカルタゴ艦隊を圧倒しました。カルタゴ艦隊の1/4は訓練不足であり、ローマ艦隊は35隻のローマ艦を前方に、20隻のマッシリア艦を後方に配置しました。練度の高いマッシリア艦はカルタゴ艦の機動を封じ込めました。ローマ艦は河口から出てくるカルタゴ艦に次々と衝角攻撃を仕掛け、4隻を撃沈、2隻を鹵獲しました。カルタゴ艦の乗組員は戦意を喪失し、陸軍が守る海岸へ逃げ込みました。ローマ軍は最終的に23隻を鹵獲しました。

戦いの影響

カルタゴにとって、この敗北は大きな痛手となりました。ハスドルバルは根拠地であるカルト・ハダシュト（現在のカルタヘナ）への撤退を余儀なくされ、ローマによる海上からの攻撃を警戒しなければならなくなりました。イベリア半島のカルタゴ海軍が壊滅したため、カルタゴ本国から艦隊を呼び寄せるか、新たに艦艇を建造する必要がありましたが、いずれも実現しませんでした。

また、イベリア人の乗組員の戦闘能力不足が露呈し、彼らを解雇したことでいくつかの部族が反乱を起こし、カルタゴ本国から鎮圧のために歩兵4,000と騎兵500を送ることが強いられました。ハスドルバルは紀元前216年の1年間をこの反乱の鎮圧に費やしました。

紀元前217年には、カルタゴの本国艦隊がコサ（現在のグロッセート県アンセドニア）からイベリアへ向かうローマの輸送船団を拿捕しました。プブリウス・コルネリウス・スキピオ（グナエウスの弟）は、その年の秋に8,000の兵と共にイベリアに到着し、元老院からハンニバルへの支援を絶つように命じられました。これは紀元前211年以前にローマがイベリアに送った唯一の増援兵力でした。スキピオ兄弟はカルタゴ支配下のイベリアを襲撃し、紀元前215年にはデルトサの戦いでハスドルバルと対峙し、勝利しました。

グナエウス・スキピオによってローマ艦隊の優位性が確立され、ローマからの海上補給がカルタゴ艦隊に阻止されることはなくなり、ローマ艦隊はカルタゴの拠点を自由に襲撃できるようになりました（最大の勝利は紀元前209年のカルタゴ・ノウァの戦いです）。その後のカルタゴ海軍の大規模な活動は、紀元前205年のマゴ・バルカによるイタリア侵攻まで行われませんでした。

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