イベリア人

イベリア人：古代イベリア半島の住人たち

イベリア人とは、古代ギリシャ・ローマの文献に登場する、イベリア半島（現在のスペイン、ポルトガルを含む地域）に居住していた人々を指す名称です。彼らは、文化、民族集団、あるいは国としての明確な定義を持たない、総括的な言葉で呼ばれていました。

歴史的な記述

イベリア人に関する最古の記述は、紀元前6世紀頃に遡ります。古代ギリシャの歴史家や地理学者たちは、当初、地中海西部沿岸を指して「イベリア」という言葉を用いていました。その後、イベリアは半島全体を指す名称となり、そこに暮らす人々全てを指すようになりました。

4世紀の著述家アウィエヌスの『オラ・マリティマ』には、紀元前530年頃のマルセイユからの船乗りの話として、地中海西部沿岸のイベリア人に関する記述が登場します。また、アッピアノスは、かつてアンダルシア西部に存在したイベリア人の町や村について触れています。ストラボンは、タルテッソスの子孫であるトゥルデタニアの諸都市について言及しました。

イベリア人の起源

イベリア人の起源については、いくつかの説が存在します。

新石器時代移住説: 紀元前5千年紀から紀元前3千年紀にかけて、新石器時代にイベリア半島に移住してきた人々が起源であるとする説です。考古学的証拠や人類学、遺伝学的な観点から、多くの学者がこの説を支持しています。彼らはまずイベリア半島東岸に沿って定住し、その後半島全体に広がっていったと考えられています。
北アフリカ起源説: イベリア人が北アフリカからやってきたとする説も存在しますが、疑問視されています。
西ヨーロッパ起源説: 西ヨーロッパや巨石文明の人々がイベリア人の先祖であるとする説です。この説は、遺伝学研究によって支持されています。イベリア人が、アイルランド島、グレートブリテン島、フランスに紀元前1千年紀にいたケルト人と類似しているとみなされるためです。
コーカサス起源説: イベリア語、バスク語が、遠く離れたコーカサス諸語と同語族を構成するという説です。古くコーカサスはギリシャ・ローマ人より「イベリア」と呼ばれており、ここからスペインに移住した民族がバスク人の祖となり、イベリア半島の呼称もそこから来ているという説です。

イベリア人は部族ごとに分かれて居住し、青銅器技術、農業、金属加工術を持っていました。彼らは金属製品をフェニキア人、ギリシャ人、カルタゴ人との貿易を通じて入手し、後に都市化された文化を築き上げました。

外部からの影響

紀元前1000年紀には、ケルト人が2度にわたってイベリア半島に侵入し、イベリア人が南部に住む一方、ケルト人は北部と西部に定住しました。その結果、中央部では文化が混ざり合い、ケルティベリア文化が生まれました。イベリア人とケルティベリア人は、地中海地域で広範囲にわたる貿易を行い、イベリア陶器はフランス、イタリア、北アフリカでも見つかっています。

ギリシャの文化も大きな影響を与え、「バーサの貴婦人」や「エルチェの貴婦人」といった像には、ギリシャの芸術様式の影響が顕著に見られます。

第一次ポエニ戦争後、イベリア人とケルティベリア人はカルタゴの支配を受け、第二次ポエニ戦争ではハンニバルの軍勢に兵隊を送りました。その後、ローマが勢力を拡大し、第一次ケルティベリア戦争やヌマンティア戦争などの戦いを経て、紀元前1世紀までにイベリア半島全域をローマの属領としました。

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