エベ・スティニャーニ

エベ・スティニャーニ（Ebe Stignani）は、20世紀前半から半ばにかけて活躍した、イタリアを代表するメゾソプラノ歌手です。1903年7月11日にイタリア南部の都市ナポリに生を受け、芸術家としての道を歩み始めました。

彼女は故郷ナポリにあるサン・ピエトロ音楽院で声楽を学び、特にアゴスティーノ・ローケ氏の指導を受けました。ここで培われた確かな技術と持って生まれた豊かな声質が、その後の輝かしいキャリアの礎となりました。

プロフェッショナルとしての舞台デビューは1925年。ナポリのサン・カルロ劇場にて、ジュゼッペ・ヴェルディ作曲の壮大なオペラ『アイーダ』に出演し、エジプトの王女アムネリス役を歌い、喝采を浴びました。この成功が、彼女のオペラ歌手としてのキャリアを本格的に始動させるきっかけとなります。

デビューから2年後の1927年には、イタリアオペラ界の最高峰であるミラノ・スカラ座に初登場を果たしました。この時の演目はヴェルディの『ドン・カルロ』で、エボリ公女役を演じました。この記念すべき初舞台を皮切りに、スティニャーニは1956年までの実に30年近くにわたり、スカラ座の主要なメゾソプラノ歌手として数多くの重要な公演に出演し続けました。その圧倒的な声量、安定したテクニック、そして役柄への深い共感に基づく表現力は、当時の聴衆や評論家から絶大な評価を受けました。特にヴェルディやベッリーニといった作曲家の作品における彼女の歌唱は、後世に語り継がれるほどの芸術性を持っていました。

長年にわたる輝かしいキャリアの後、エベ・スティニャーニは1958年に舞台から引退しました。そして、故国イタリアのイーモラにて、1974年10月6日に71年の生涯を閉じました。

彼女の歌声は、数多くの商業録音を通して現在も聴くことができます。特にオペラ全曲録音は、彼女の芸術を知る上で非常に貴重な資料となっています。以下に、主なオペラ全曲録音の一部を挙げます。

ポンキエッリ：『ラ・ジョコンダ』 (1931年、伊コロムビア)：ロレンツォ・モラヨーリ指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団。ラウラ役。共演：ジャンニーナ・アランジ＝ロンバルディ（ジョコンダ）、アレッサンドロ・グランダ（エンツォ）など。
ベッリーニ：『ノルマ』 (1937年、チェトラ)：ヴィットリオ・グイ指揮トリノEIAR管弦楽団。アダルジーザ役。共演：ジーナ・チーニャ（ノルマ）、ジョヴァンニ・ブレヴィアリオ（ポリオーネ）など。
ヴェルディ：『運命の力』 (1941年、チェトラ)：ジーノ・マリヌッツィ指揮トリノEIAR管弦楽団。プレツィオジッラ役。共演：マリア・カニーリア（レオノーラ）、ガリアーノ・マシーニ（ドン・アルヴァーロ）など。
ヴェルディ：『アイーダ』 (1946年、伊HMV)：トゥリオ・セラフィン指揮ローマ歌劇場管弦楽団・合唱団。アムネリス役。共演：マリア・カニーリア（アイーダ）、ベニャミーノ・ジーリ（ラダメス）、ジーノ・ベーキ（アモナスロ）など。この録音は、戦後イタリアオペラ録音の代表的な一つとして知られます。
ヴェルディ：『アイーダ』 (1952年、デッカ・レコード)：アルベルト・エレーデ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団・合唱団。アムネリス役。共演：レナータ・テバルディ（アイーダ）、マリオ・デル・モナコ（ラダメス）、アルド・プロッティ（アモナスロ）など。同時代の名歌手たちとの共演として重要です。
ベッリーニ：『ノルマ』 (1954年、コロムビア＝EMI)：トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団。アダルジーザ役。共演：マリア・カラス（ノルマ）、マリオ・フィリッペスキ（ポリオーネ）など。マリア・カラスとの共演盤として特に有名であり、歴史的な価値が高い録音です。
* チマローザ：『秘密の結婚』 (1956年、コロムビア＝EMI)：ニーノ・サンツォーニョ指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団。フィダルマ役。共演：グラツィエッラ・シュッティ（カロリーナ）、エウジェニア・ラッティ（エリゼッタ）など。

これらの録音を通じて、エベ・スティニャーニの堂々たる歌唱と深い表現力は、時を超えて多くのオペラファンに感動を与え続けています。彼女は、特にドラマティックなメゾソプラノのレパートリーにおいて、20世紀を代表する偉大な歌手の一人として、その名を歴史に刻んでいます。

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