エモーショナル・レスキュー

ローリング・ストーンズのアルバム『エモーショナル・レスキュー』は、1980年のリリースと同時に、イギリスとアメリカで1位を獲得するという輝かしいデビューを飾りました。前作『女たち』で確立されたディスコサウンドをさらに進化させ、レゲエやダブといった新たな要素を取り入れるなど、実験的な試みも散りばめられた意欲作と言えるでしょう。

レコーディングは1978年8月、ロサンゼルスのRCAスタジオからスタートしました。その後、キース・リチャーズのドラッグ事件の裁判を挟みつつ、バハマのコンパス・ポイント・スタジオ、そしてパリのパテ・マルコーニ・スタジオへと場所を移し、1979年10月までに基本的な録音を完了しました。さらにニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオでオーバーダブやミックス作業を行い、1979年末には完成したのです。しかし、当初予定されていた1980年初頭のリリースは、一曲の収録をめぐるレコード会社とのトラブルにより、半年遅れることになります。この問題の曲は「クロディーヌ」という、ストーンズの未発表曲の中でも特に有名な一曲で、後に『女たち』のデラックス・エディションに収録されることになりました。

アルバム制作は、前作のような緊迫感とは対照的に、非常にリラックスした雰囲気で行われたとされています。共同プロデューサーのクリス・キムジーは、この点について証言を残しています。キース・リチャーズは42曲ものトラックを録音したと語り、宣伝資料には75曲もの候補の中から10曲が選ばれたと記されています。これだけでも、相当数の楽曲が制作されたことが分かります。しかし、ミック・ジャガーは、本作の素材の多くは『女たち』の残りの部分だったと語っており、制作過程が常に順調だったわけではないことを示唆しています。実際、このセッション中から、ジャガーとリチャーズの音楽的嗜好の相違が顕著になり始め、ロン・ウッドは彼らが自分自身を真ん中に置き去りにして、どんどん離れていくように感じた、と語っています。

本作からは、アルバムタイトルにもなった「エモーショナル・レスキュー」が先行シングルとしてリリースされ、アメリカで3位、イギリスで9位、カナダで1位を獲得する大ヒットとなりました。また、ロン・ウッドのリードボーカルが印象的な「オール・アバウト・ユー」は、アルバムのラストを飾る楽曲として収録されています。アルバム・ジャケットには、赤外線カメラで撮影されたメンバーのサーモグラフィー画像が用いられ、オリジナル盤には内袋の代わりに、巨大なポスターが用いられるなど、ビジュアル面でも印象的な作品となりました。

『エモーショナル・レスキュー』は、1994年にリマスター盤が発売され、その後も何度かリマスター、再発が繰り返されています。日本においても、SACDやSHM-CDによる高音質盤がリリースされており、現在でも多くのファンに愛される作品となっています。

商業的な成功は収めたものの、音楽評論家からの評価は必ずしも高くなかったと言えるでしょう。ローリングストーン誌は、このアルバムの多くは曖昧で非現実的であり、真剣に受け止めにくいレコードだと酷評しています。ジャガー自身も、このアルバムは冗談半分で作られたものであり、真剣に受け止めるべきではないと語っています。また、このアルバムリリース後、ツアーがキャンセルされたことで、ジャガーとリチャーズの間に大きな亀裂が生じ、その後のバンド活動にも影を落とすことになったとも言われています。さらに、このアルバムの収録曲のうち、半数以上はコンサートで演奏されたことがないという事実も、このアルバムの独特な位置付けを示していると言えるかもしれません。

収録曲は、ミック・ジャガーとキース・リチャーズを中心に、ロン・ウッド、ビル・ワイマン、チャーリー・ワッツといったストーンズの主要メンバーに加え、多くのミュージシャンが参加しています。イアン・スチュワート、ボビー・キーズ、マイケル・シュリーヴ、シュガー・ブルーといった面々が、それぞれの持ち場で楽曲に彩りを添えています。

このように、『エモーショナル・レスキュー』は、商業的な成功と、メンバー間の葛藤、そして独特の音楽性と評価の二面性を併せ持つ、ローリング・ストーンズの歴史において重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

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