エリック・ゲイル

エリック・ゲイル：ジャンルを超越した伝説のギタリスト

エリック・ゲイル（Eric Gale, 1938年9月20日 - 1994年5月25日）は、アメリカが生んだ偉大なジャズ/フュージョンのスタジオ・ミュージシャン、そして卓越したセッション・ギタリストです。フュージョン・グループ「スタッフ」のメンバーとしての活動が特に知られており、その革新的な音楽性で多くの人々を魅了しました。

生い立ちと音楽への目覚め

1938年、ニューヨーク州ブルックリンで生まれたゲイルは、多様なルーツを持つ家庭で育ちました。12歳という若さでウッドベースとギターを手にし、その才能を開花させます。学業にも優れ、高校を飛び級で進学するなど、非凡な能力を発揮しました。若き日のゲイルにとって幸運だったのは、知人の紹介でジャズの巨人、ジョン・コルトレーンと出会い、彼の自宅でセッションを重ねた経験でしょう。この出会いは、ゲイルの音楽人生に大きな影響を与えたと考えられます。

大学では、音楽とは異なる化学を専攻し、修士号を取得。しかし、音楽への情熱を断ち切れず、大学卒業後はプロのミュージシャンとしての道を歩み始めます。ブルックリンのライブハウスを拠点に、精力的な音楽活動を展開しました。また、ゲイルはスペイン語をはじめとする複数の外国語に堪能であったことでも知られています。

セッション・ミュージシャンとしての成功

ゲイルが最初に手掛けた大ヒット曲は、ボビー・ルイスの「トッシン・アンド・ターニン」でした。その後、ザ・ドリフターズ、キング・カーティス、ザ・フラミンゴス、マキシン・ブラウン、ソロモン・バーク、ボビー・ティモンズ、ジャッキー・ウィルソンなど、数々の著名なアーティストのセッションに参加し、その名を広めていきました。

1966年、ゲイルはクリード・テイラーに見出され、CTIレコードのサイドマンとして活躍の場を広げます。1972年には、テイラーのプロデュースにより、自身のアルバム『フォアキャスト』を発表。ギタリストとしての才能を遺憾なく発揮しました。1969年には、女性ジャズ・オルガン奏者シャーリー・スコットのアルバムにも参加しています。

クインシー・ジョーンズのアルバム『ウォーキング・イン・スペース』（1973年）、『ボディ・ヒート』（1974年）への参加は、ゲイルの評価をさらに高めました。これらのアルバムは、ジャズファンから熱狂的な支持を受けています。

ジャマイカでの新たな挑戦とロバータ・フラックとの共演

1971年、ゲイルはドラッグ中毒からの脱却と心身の保養のため、ジャマイカのネグリルに移り住みます。1972年には、ボブ・マーリーが使用していたスタジオでリーダー・アルバム『ネグリル』を録音。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのアストン・バレット（ドラム）、セドリック・ブルックス（ベース）、ピーター・トッシュ（ギター）、リチャード・ティー（ピアノ）らが参加しました。

また、ゲイルはロバータ・フラックと親交が深く、1972年には、ロバータ・フラックとダニー・ハサウェイとのデュエット曲「恋人は何処に (Where Is the Love)」のレコーディングに参加し、大ヒットを記録。プロデューサーはラルフ・マクドナルドが務めました。1973年には、ロバータ・フラックの「やさしく歌って (Killing Me Softly with His Song)」が全米1位を獲得。この曲にもゲイルのギターがフィーチャーされています。ロバータ・フラックは、この曲でグラミー賞最優秀レコード賞を受賞しました。

スタッフ結成とディスコ・ブームへの貢献

1975年、ゲイルはゴードン・エドワーズらと共にフュージョン・バンド「スタッフ」を結成。ニューヨークのライブハウス「Mikelle's」を中心にセッション活動を展開し、人気を博しました。スタッフのファースト・アルバムはヴァン・マッコイがプロデュースを担当し、グラミー賞にノミネートされています。1976年には、人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』にスタッフのメンバーとして出演し、レギュラーを務めました。

1975年には、ヴァン・マッコイのヒット曲「ハッスル」に参加。この曲はディスコ・ブームに乗り、全米1位、全世界で1000万枚以上のセールスを記録する大ヒットとなりました。この曲で、ヴァン・マッコイはグラミー賞「最優秀ポップ・インストゥルメンタル賞」を受賞しています。

1978年には、クインシー・ジョーンズのアルバム『スタッフ・ライク・ザット』に収録されたディスコ曲「スタッフ・ライク・ザット」がアメリカでヒット。スタッフのメンバーを中心に、パティ・オースティン、アシュフォード&シンプソン、チャカ・カーンらが参加しました。

晩年と遺産

1980年には、ポール・サイモンが脚本を手がけた映画『ワン・トリック・ポニー』に俳優として出演。同年にグローバー・ワシントン・ジュニアが発表したアルバム『ワインライト』に収録された「Just the Two of Us」も大ヒットしました。ゲイルは、渡辺貞夫のアルバムにも度々参加。マイケル・ジャクソンのアルバム『バッド』（1987年）、アル・ジャロウのアルバム『テンダネス』にも参加しています。

エリック・ゲイルは1994年、肺がんのためメキシコのバハ・カリフォルニア州で亡くなりました。しかし、彼の音楽は今も色あせることなく、世界中の音楽ファンに愛され続けています。ジャンルを超越したそのギタープレイは、後世のミュージシャンに多大な影響を与え、音楽史にその名を深く刻んでいます。

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