エリート (漫画)

エリート

『エリート』は、平井和正原作、桑田次郎（現：桑田二郎）作画によるSF漫画作品です。1965年（昭和40年）8月より『週刊少年キング』にて連載が開始されました。

あらすじ

第1部

太古の時代から人類を見守ってきた宇宙生命体アルゴールは、人類が宇宙に進出する資格があるのかを試すため、3人の人物を選び、その潜在能力を覚醒させ「エリート」としました。選ばれたのは、日本の中学生、アメリカの赤ん坊、そして国際的な犯罪者という、それぞれ異なる背景を持つ者たちでした。

エリートの一人となった犯罪者ダンガーは、世界征服を目論み、特にアメリカの赤ん坊であるジョン坊やを狙います。ジョンには、他の2人にはない特別な超能力が備わっていたからです。宇宙をも支配しようとするダンガーに対し、最後のエリートである滝竜太郎が立ち上がり、人類の未来をかけた戦いが始まります。

人類は自滅の道を辿るのか、それとも新たな未来を切り開くのか？その答えは、エリートたちの手に委ねられました。

第2部 魔王ダンガー

ダンガーが日本に帰還します。当初、日本人はダンガーを犯罪者として警戒し、嫌悪していましたが、次第に彼のカリスマ性に惹きつけられ、ついには救世主として崇めるようになります。竜太郎は、ダンガーとの最後の決着をつけるべく、最終決戦に挑みます。

登場人物

エリート（主人公側）

滝竜太郎（たき りゅうたろう）
中学3年生の日本人。父親や教師からは竜太と呼ばれることが多い。漫画家を目指す心優しい少年でしたが、アルゴールによってエリートとして覚醒します。
ジョン・コワルスキー
アメリカの赤ん坊で、ジョン坊やと呼ばれています。アメリカでは「ワンダーベビー」とも呼ばれていました。他のエリートとは異なり、予知、テレパシー、念力、透視など、様々な超能力を持っています。カリスマ的な魅力があり、極悪人であるダンガーの部下たちでさえ、ジョン坊やを庇護するほどでした。イスマイリ先生を師匠としてからは徐々に描写が減り、第2部には登場しません。

主人公の関係者

滝夫妻
竜太郎の両親。夫の名は虎太（もしくは虎太郎）。妻の名は不明。CIAに捕らえられ、洗脳機にかけられた結果、廃人となり精神病院に収容されます。
コワルスキー夫妻
ジョンの両親。ダンガーからジョンを逃がそうとアメリカを脱出するも、物語の序盤で死亡します。妻の名はアイリン。夫の名は不明。
田中課長
警視庁の課長（部署は不明）。『8マン』の同名人物と酷似していますが、関係性は不明です。
ジュディ・ソロモン
竜太郎のガールフレンド。第1部のラストでダンガーによって人格を改変され、第2部で死亡します。
ソロモン博士
ジュディの父親で、超能力を研究しています。
イスマイリ
インド人で、イスマイリ先生と呼ばれています。竜太郎からはミイラじじいと呼ばれることも。ヨガの行者であり、テレパシー、念力、透視などの超能力を使います。
名称不明の存在
第2部に登場し、ザーニンから竜太郎を救います。ソロモン邸の地下5kmにある超科学施設で、意思を持ちますが、人間かコンピュータか、あるいは他の存在かは不明です。ソロモン邸の地下室には、竜太郎が製作したコンピュータがありました。

その他

アレン警部
FBIの捜査官。田中課長に協力しますが、ダンガーに殺害されます。ワンダーベビー（ジョン坊や）について知っていました。
金田
竜太郎の学校の番長。3度登場します。最初はコミカルなキャラクターでしたが、2度目の登場でエリート化した竜太郎に腕の骨を折られ、3度目には複数の部下を連れて竜太郎をリンチにかけます。
雪男
第2部で、イスマイリ先生からその存在が言及されます（真偽は不明）。

CIA

ドランケ大佐
滝竜太郎（エリート）捕獲作戦の責任者。滝夫妻を洗脳機にかけ廃人にします。後に改心し、第2部「魔王ダンガー」で、タックと共に竜太郎に協力を申し出ますが、ジュディの死により拒否されます。
タック・ドノバン
腕利きの工作員。格闘技など実戦に秀でています。タイガーをパートナーとしています。滝夫妻が廃人になったのを見て改心します。
タイガー
コリー犬。吠え声がモールス信号になっており、尾行も行う賢い犬。戦闘服を盗み出しました。
スパイラル博士
専攻は不明。ローリアを連れてきました。戦闘服を研究・着用し、竜太郎と戦いました。エゴイストであり、最後まで改心する事は無く、一人脱出を図るが、竜太郎の命令により自律戦闘で破壊を続ける改良型戦闘服と誤認され、戦車隊の集中砲撃により死亡します。
ローリア
盲目の女性。超能力者で、テレパシー、透視が使えます。スパイラル博士の切り札でしたが、竜太郎の激しい怒りを感じ発狂します。
アルゴール
宇宙生命体最古の種族。地球誕生以来、その歴史を見守ってきました。モーゼやキリストをエリートにしたとされています。初登場時は「宇宙人」、期間も「百万年」とされていました。

エリート（ダンガー）

エルケーニッヒ・ダンガー
残忍で冷酷な性格の国際的犯罪者。ジョンの超能力を解明し、世界（いずれは宇宙）を手に入れようと企んでいます。最初はエルケ・ニッヒ・ダンガーと名乗っていました。超兵器の他、潜水艦、ブイトール機も所有しています。第1部では黒髪でしたが、第2部では金髪になっています。第2部ではエルケーニッヒ伯爵と名乗っています。サイボーグですが、どの段階からかは不明です。

ダンガーの関係者

第1部に登場したダンガーの部下（ダンガー党）は犯罪者・極悪人ぞろい。第1部終盤では洗脳技術を使い、部下を増やしていました。
火村炎（ひむら ほのお）
第2部に登場。栄達を目論みダンガーに協力を買って出ます。元は新聞記者（毎朝新聞の外信部長）で、捨てた妻との間に子供たちがおり、その真里奈と熱（あつし）の姉弟は翻意を促すべく、ダンガーの側近となった火村のもとを訪れますが、追い返されます。（サンコミックス版では真里奈と熱の姉弟のエピソードは、すべてカットされています）
ドガ
第2部に登場。親衛隊長。ナイフ投げ、射撃の名手です。
ザーニン
第2部に登場。死刑執行人で、大男。素手では竜太郎よりも強いです。

エリートの能力

長所
潜在能力を引き出されており、超人的な能力を持ちます。竜太郎とダンガーは、知識・体力が強化されています。ジョン坊やのみ、超能力に目覚めています。
弱点
潜在能力を常時使用しているため、エネルギーの消耗が激しく、食事・睡眠が常人の倍（倍以上）必要となります。

超科学の産物

主人公側

戦闘用の強化服が4体あります。その他、ソロモン邸の地下室には巨大コンピュータ（竜太郎製作）があります。
最初の強化服
装甲は、特殊合金のハイポテンシャル鋼。気密になっており、弾丸や放射能も浸透しません。人工筋肉組織により、筋力を数十倍に増幅します。当初は百倍と呼称、後に数千倍と書かれます。ゴーグルは赤外線双眼鏡。重力発生装置を備え、飛行する事もできます。酸素ボンベ、無線機、マイク（スピーカー）を内蔵。アンテナの先はサーチライトになっています。
改良型
強化服としての機能に加え、竜太郎の音声による命令に従って自律行動ができます（ロボット化）。最初の強化服が奪われたため、急遽製作されました。
ジュディの強化服
第2部に登場。素材等の詳細は不明です。
特別製の強化服
第2部終盤に登場。竜太郎をして「この服を着る者は死神になる」と言わせた超兵器の塊。竜太郎が今までに製作した強化服の能力に加え、極限まで肉体をサイボーグ化したダンガーに対抗し得る攻撃能力を備えています。ダンガーを倒す最後の切り札として、竜太郎の怒りの感情を感知し、熱エネルギーに変えて放射する能力がありますが、田中課長に見せたテスト段階でも、室内をまるで溶鉱炉のように変えてしまいました。

ダンガーの使用した武器

プラズマ・ガン
原子銃。イオンと電子を放出します。
ペンシルバニューム弾
超小型原爆。ライフルの弾丸と同じ外見で、ライフルから発射できます。日本国内でダンガーが4度使用し、自衛隊の一個師団が壊滅するなど、甚大な被害を出しました。
洗脳薬
2度注射することにより、ダンガーの人格が移植されます。2回の間隔は30分空けます。
神罰光線
第2部「魔王ダンガー」に登場。ダンガーが手にした杖をふりかざすと、強烈な光線が天空から降ってきて相手を焼き尽くします。特別製の強化服に身を固め、乗り込んだ竜太郎のプラズマ銃を一瞬で蒸発させますが、その実体は衛星軌道からの光線兵器であり、杖は精密攻撃のための端末でした。
死者を甦らす奇跡
第2部「魔王ダンガー」に登場。ダンガーに怯え、恐怖のあまり逃げ惑う群集に踏み殺された哀れな男を、ダンガーは蘇生させ、民衆の前でダンガーに忠誠を誓わせました。これにより、民衆のダンガーに対する恐怖はカリスマへと転換し、ダンガーを支持する人々が続出しました。無謀にも強化服の力でダンガーに挑み死んだジュディの遺体も奪われ、ダンガーによって蘇生されました。だが、時がたつと甦った男も、再び死体と化し、ダンガーによる奇跡は何らかの方法で死体を生きているかのように動かし、演出されたものであることが暴露されました。

他の平井和正作品との関係

8マン
警視庁の田中課長が登場します（直接の関係は語られていません）。作画も同じ桑田次郎。後述のソノシートに収録された主題歌もアニメ版と同じ作詞・作曲者です。
超犬リープ
同時期に連載されており、作画も同じ桑田次郎です。
サイボーグ・ブルース
超小型原爆（ペンシルバニューム弾）などのSF兵器を揶揄するシーンがあります。
狼の怨歌（ウルフガイ・シリーズ第2作）
ドランケ大佐と同名の人物が登場します。竜太郎の両親の運命（CIAに捕獲され、廃人）は、青鹿晶子の運命と相似しています。
人狼戦線（アダルト・ウルフガイ・シリーズ）
超小型原爆（ペンシルバニューム弾）と同じ性能の物が登場します。
幻魔大戦
アルゴールとフロイ（小説版）の類似性が見られます。
超革命的中学生集団
作品の方向性こそ異なるものの、本作の設定のかなりの部分が用いられた小説です。

ソノシート

本作はテレビ化（アニメ、実写とも）されませんでしたが、コダマプレスから主題歌、ドラマ「悪人ダンガーをやっつけろ!!」を収録したソノシートが発売されています（後のドラマCDのような物）。

主題歌『エリートのうた』
作詞：前田武彦
作曲：萩原哲晶
歌：ザ・シャデラックス
声の出演
滝竜太郎：堀絢子
エルケーニッヒ・ダンガー：高塔正康
ジュディ・ソロモン：松尾佳子
ジョン・コワルスキー：野村道子
田中課長：島宇志夫
ナレーター：城達也

備考

桑田に『バットマン』を描かせるため、スケジュール調整として第1部が終了しました。
サンコミックス版で、平井は「本作は桑田の最高傑作」と断言しています（初版は昭和43年（1968年3月27日））。

関連項目

8マン インフィニティ - 本作の登場人物をモデルにしたキャラクター（ダンガー等）が登場します。
* ベトナム戦争 - 本作の導入部に描写があり、テーマに繋がっています。

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