エルチチョン

エルチチョン：メキシコの脅威的な活火山

メキシコ合衆国チアパス州北西部にそびえ立つエルチチョン火山（El Chichón、別名エルチチョナル El Chichonal）は、その歴史に数々の噴火を刻んできた活火山です。名前の由来はスペイン語で「瘤（こぶ）」を意味する言葉で、その形状を表していると考えられます。

22万年の歴史と繰り返される噴火

およそ22万年前に起きた大規模な噴火活動は、1.6キロメートル×2キロメートルもの巨大なカルデラを形成しました。それ以降も、700年、1350年、1850年と断続的に噴火を繰り返してきました。これらの噴火は、周辺地域に大きな影響を与えたと考えられますが、詳細な記録は限られています。

1982年：20世紀を震撼させた大噴火

エルチチョンの歴史において最も記憶に刻まれているのは、1982年の大噴火です。3月29日に始まった噴火活動は、4月4日までにピークに達しました。火砕流は火口から約8キロメートルに渡って流れ下り、周辺の村や町を壊滅的な打撃にさらしました。この噴火によって、2000名以上の尊い命が失われました。一部の報告では、犠牲者数は1万7000名に上るともされており、もしそれが事実であれば、20世紀に発生した火山災害の中でも3番目に犠牲者数の多い災害となります。

さらに、この噴火は地球規模への影響も及ぼしました。噴煙は高度16,000メートルにまで到達し、大量の火山灰やエアロゾルが成層圏に放出されました。その結果、世界平均気温が0.3℃～0.5℃低下したと言われています。この噴火による経済的損失は莫大で、被害総額は55,000,000メキシコ・ペソに上り、24,000平方キロメートルもの耕地が破壊されました。

現在も続く活動と未来への警戒

現在、エルチチョンの火口には酸性の水を湛えた火口湖が形成されており、噴気活動が続いています。このことは、エルチチョンが依然として活発な火山であり、将来的な噴火の可能性を秘めていることを示しています。メキシコ政府は、エルチチョン火山を常に監視し、早期警戒システムの整備に努めています。しかしながら、大規模な噴火の脅威は、周辺地域に住む人々にとって常に付きまとう現実です。

研究と記録

エルチチョンの噴火は、火山学研究において重要な資料となっています。特に1982年の大噴火は、その規模と地球規模への影響から、多くの研究者によって詳細に分析され、気候変動や火山災害への理解を深める上で重要な知見を提供しています。清水透著『エル・チチョンの怒り―メキシコにおける近代とアイデンティティ』（東京大学出版会、1988年）は、この火山と周辺社会への影響について詳細に考察した貴重な文献です。

エルチチョン火山は、その歴史と潜在的な危険性から、今後も火山学研究の重要な対象であり続け、人類は自然の脅威に対する警戒を怠ることなく、未来に向けた備えを進めていく必要があるでしょう。

もう一度検索