エレクトロポレーション (美容法)

エレクトロポレーション美容法

エレクトロポレーション美容法とは、生物工学分野で用いられる「電気穿孔法（エレクトロポレーション）」という技術を美容に応用したものです。この技術は、「ポレーション」、「エステティックポレーション」、「ノンニードルメソセラピー」など、様々な名称でも知られています。

仕組みと期待される効果

美容用のエレクトロポレーション機器を使用する際、肌にごく短く強い特殊な電気パルスが与えられます。この電気刺激により、一時的に皮膚の表面にある細胞（上皮細胞）の細胞膜に微細な隙間（透過経路）が形成されます。これにより、普段は肌の奥深くまで浸透しにくい、分子が大きい成分や水溶性の成分（親水成分・高分子成分）を、イオン化などの処理をすることなく、分子そのままの形で真皮層のさらに下まで効率的に導入することが可能になります。

エレクトロポレーション専用に開発された導入液を用いることで、様々な美容効果が期待できます。具体的には、肌のハリや弾力を高めるコラーゲンやヒアルロン酸の導入、シミや肝斑の改善、光老化やシワの抑制、ニキビ跡のケア、部分的な脂肪分解や顔痩せ、さらには育毛や発毛といった、多岐にわたる美容効果が挙げられます。

歴史

電気と細胞の関係性についての研究は古くから行われてきました。18世紀のフランスでは、1754年に皮膚に電場をかけると細胞に孔が開く現象が実験的に確認されています。しかし、この頃の技術では細胞の変化が不可逆的で、細胞死を引き起こしていました。

19世紀に入ると、電場が細胞に与える影響に関する研究がさらに進みます。そして20世紀、1972年にドイツの研究者らによって、高い電圧の下で細胞膜に短い電気刺激を与えると、細胞にダメージを与えることなく細胞膜の透過性を変化させ、細胞外部の物質を細胞内部に取り込めることが発見されました。これを受けて、電気刺激を用いた遺伝子導入などの研究が盛んに行われ、細胞膜の性質や電場の条件に関する多くの成果が発表されます。

1982年には、遺伝子導入などに使われる高電圧下の電気刺激に関する条件、メカニズム、効果が体系的にまとめられ、この技術が「エレクトロポレーション」と正式に命名されました。この名称は、電気を意味する「エレクトロ」と、孔を形成する「ポアー・フォーメーション」に由来しています。細胞死を引き起こさない条件の研究も進み、遺伝子導入、細胞融合、がん治療、様々な薬剤の導入など、多分野での応用研究が進展しました。

美容領域への応用としては、1993年にエレクトロポレーションが皮膚からの薬剤導入にも利用可能であることが報告されました。そして2008年には、日本で現在の美容領域におけるエレクトロポレーション導入の基本的な技術が開発されました。

安全基準と導入液

エステティック業界で使用されるエレクトロポレーション機器の安全性については、一般社団法人日本エステティック工業会内に設けられた「エステティックポレーション委員会」が基準を定めています。この委員会では、エステティック領域で使用される機器を「エステティックポレーション機器」と称し、この名称を商標登録しています。

また、この委員会は、NPO法人日本エステティック機構が推進する「エステティック機器認証制度」に「エステティックポレーション機器」を新たなカテゴリーとして加えることを目指しています。関係機関との協議を重ねながら、安全基準の最終確認や「エステティックポレーション機器適合審査制度」の開始準備が進められています。

エレクトロポレーション機器と組み合わせて使用する導入液には、機器メーカー純正品の使用が推奨されています。真皮層下への導入を目的とするため、純正導入液は有効成分を高濃度で配合し、酸化防止剤や防腐剤などの添加物を可能な限り排除しています。また、高分子ヒアルロン酸などで適切な粘性を持たせ、高分子ビニルポリマーなどのゲル化剤は使用していません。安全基準では、機器メーカーによってその効果と安全性が第三者医療機関などで確認され、エビデンス（科学的根拠）が確立されている純正品の使用が定義されています。

特許と市場における注意点

日本国内のエレクトロポレーション導入機器には、株式会社ビーティフィックが保有する特許技術に基づいた製品が多く存在します。同社はエレクトロポレーション導入の基本技術特許や育毛技術特許を保有しており、ライセンス供与も積極的に行っています。

しかしながら、これらの特許技術を侵害・模倣した違法な商品が市場に数多く出回っていることも指摘されています。特許法では、特許侵害品を製造する行為だけでなく、販売や使用も特許権侵害として違法行為とみなされ、損害賠償の対象となるだけでなく、罰則の規定もあります。そのため、特許侵害品を選んでしまうことで、間接的にでも違法行為に関与しないよう注意が必要です。

さらに、家庭用エレクトロポレーション機器の中には、エレクトロポレーションを謳いながらも、実際の出力電圧、周波数、波形などが技術的な定義を満たしておらず、エレクトロポレーション機能そのものを有していない「機能偽装商品」が多く存在します。これらの製品で得られる美容効果は限定的であり、真のエレクトロポレーションによるものとは言えない場合があります。医科・美容クリニックやメディカルエステなどで提供される施術とは異なる点を理解し、製品選びには十分な注意が求められます。

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