エンニウス

クイントゥス・エンニウス：ローマ詩の父

クイントゥス・エンニウス（Quintus Ennius, 紀元前239年 - 紀元前169年）は、共和政ローマ時代に活躍した作家であり、「ローマ詩の父」として広く知られています。彼はギリシア人の血を引いていましたが、ラテン文学に計り知れない影響を与えました。彼の作品は残念ながら断片的にしか現存していませんが、その断片からでも彼の才能と革新性を垣間見ることができます。

生涯

エンニウスは、イタリア半島南部のサレント地方にあるルディアエ（Rudiae）という町で生まれました。この地は、ギリシア語、オスク語、ラテン語が混在する文化的な交差点でした。エンニウス自身もこれらの言語に堪能であったと考えられています。彼の初期の経歴については詳しい記録が残っていませんが、紀元前144年の執政官であるセルウィウス・スルピキウス・ガルバの家庭教師を務めていた可能性が指摘されています。

作品

エンニウスは、叙事詩、悲劇、喜劇、風刺詩など、多岐にわたるジャンルの作品を制作しました。以下に彼の代表的な作品を紹介します。

Epicharmus

『Epicharmus（エピカルムス）』は、神々と宇宙の物理的な働きを描いた作品です。詩人は夢の中で、死後に天上の悟りの場所へ運ばれる様子が描かれています。

Euhemerus

『Euhemerus（エウヘメルス）』は、メッセネのエウヘメルス（en:Euhemerus）など数人の神学者たちのギリシア語をモデルにした散文作品です。オリンポス山の神々を、人類の出来事に積極的に介入する超自然的な力ではなく、古代の偉大な将軍、政治家、発明家として描き、死後に特別な方法で記念された存在としています。

Hedyphagetica

『Hedyphagetica（ヘデュパゲティカ）』は、美食に関する叙事詩であり、ゲラのアルケストラトス（en:Archestratus）の作品から着想を得ています。現存するわずかな断片は、よりシリアスな叙事詩『Annales』とは異なる詩形の特徴を示しています。

Saturae

『Saturae（サトゥラエ）』は、非常に多様な韻律を持つ6巻の作品です。エンニウスは、1つの作品の中でも韻律を変化させることがあったようです。この作品では、エンニウス自身やローマの上流階級の友人たちの社会生活や知的な会話がテーマとして頻繁に登場します。

Annales

『Annales（年代記）』は、エンニウスの代表作であり、全15巻（後に18巻まで続刊）からなる叙事詩です。紀元前1184年のトロイア滅亡から紀元前184年の大カトの監察官任期期間までのローマ史を描いています。ギリシア叙事詩や教訓詩で用いられていた長短短格のヘクサメトロスの韻律を初めてラテン語の詩に適用し、以後のラテン文学における叙事詩の標準となりました。『Annales』は、ローマの子供たちの教科書としても使用されましたが、最終的にはウェルギリウスの『アエネーイス』に取って代わられました。現在、約600行が現存しています。

エンニウスの言葉として、以下の有名な格言が残っています。

無益な心はそれが何を欲しいかを知らない。
Amicus certus in re incerta cernitur（真の友は不確かな状況の間に見つけられる） - キケロが『ラエリウスまたは友情について』の中（17.64）で引用した有名な格言。

参考文献

Farney, Gary D. (1997). “THE FALL OF THE PRIEST C. SULPICIUS GALBA AND THE FIRST CONSULSHIP OF MARIUS”. Memoirs of the American Academy in Rome (University of Michigan Press) 42: 23-37. JSTOR 4238746.

読書案内

R. A. Brooks, Ennius and Roman Tragedy (1981)
R.L.S. Evans, Ennius in The Dictionary of Literary Biography: Latin Writers. Ed.Ward Briggs. Vol. 211, 1999.
H. D. Jocelyn, The Tragedies of Ennius (1967)
O. Skutsch, The Annals of Quintus Ennius (1985)

外部リンク

Fragments of Ennius' Annals text from Wordsworth (1874), line numbering from Warmington (1935)（ラテン図書館）

エンニウスは、ラテン文学の発展に多大な貢献をした人物であり、彼の作品は後世の作家たちに大きな影響を与えました。彼の残した断片から、古代ローマの文化と精神を垣間見ることができるでしょう。

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