エンリコ・ラヴァ

エンリコ・ラヴァ

エンリコ・ラヴァ（Enrico Rava）は、1939年8月20日にイタリアで生まれた著名なジャズトランペッターです。当初はトロンボーン奏者として音楽の道を歩み始めましたが、ジャズ界の巨人マイルス・デイヴィスの革新的な音楽に触れたことが転機となり、トランペットへと転向しました。

彼のプロとしてのキャリアは、1960年代半ばにサクソフォニストのガトー・バルビエリ率いるイタリアン・クインテットに参加したことから本格的にスタートします。この頃から彼の演奏は商業的な作品に記録され始めました。1960年代後半には、実験的な音楽性で知られるスティーヴ・レイシーのグループにも加わり、表現の幅を広げていきました。1967年にはアメリカ合衆国のジャズの中心地であるニューヨークへと拠点を移し、国際的な活動を展開していきます。ニューヨークでは、後に1970年に唯一のアルバムをリリースしたグループ、「Gas Mask」のメンバーとしても活動しました。

1970年代から1980年代にかけて、ラヴァはジャズ界のそうそうたる顔ぶれとの共演を重ねました。ギタリストのジョン・アバークロンビーやパット・メセニー、ピアニストのミシェル・ペトルチアーニやセシル・テイラー、サクソフォニストのジョー・ヘンダーソンやジョー・ロヴァーノ、ベーシストのミロスラフ・ヴィトウスといったモダンジャズの巨匠たちとのセッションを通じて、その地位を確固たるものにしました。また、カーラ・ブレイ、リー・コニッツ、ジャンヌ・リー、ポール・モチアン、ラズウェル・ラッドといった個性的なアーティストたちとも共演しており、その音楽的な交流は多岐にわたります。

ラヴァの演奏スタイルは、ジャズの伝統であるビバップを基礎に置きながらも、ときにアヴァンギャルドなアプローチを取り入れるなど、多様な側面を持ち合わせています。その探求心は、他のトランペッターとの共同プロジェクトにも現れており、特に同郷のパオロ・フレスとは、ビックス・バイダーベック、ルイ・アームストロング、チェット・ベイカー、そしてマイルス・デイヴィスといった歴史上の偉大なトランペッターたちへの敬意を込めた4枚のアルバムを共同で制作しています。

また、クラシック音楽に対する深い造詣も彼の作品に反映されており、オペラのアリアや序曲をジャズの語法で再構築したアルバム『Rava, L'Opera Va'』や『Carmen』は特筆すべき作品です。これらの作品を通じて、彼は自身の音楽的なルーツとジャズの即興性を融合させる独自の表現手法を示しました。

2001年には、イタリアの著名なピアニスト、ステファノ・ボラーニと共にクインテットを結成し、ガトー・バルビエリやドラマーのアルド・ロマーノをフィーチャーしたツアーを行いました。ヨーロッパでは、ベーシストのエバーハルト・ウェーバーやパーカッショニストのレト・ウェーバーとのトリオ編成での活動も展開しています。

ジャズ教育への貢献も重要な側面であり、2005年6月には、イタリアの「ウンブリア・ジャズ・フェスティバル」におけるジャズ教育活動への長年の功績が認められ、バークリー音楽大学から音楽の名誉博士号を授与されました。これは、演奏家としての活動にとどまらず、次世代のジャズミュージシャン育成にも尽力してきた彼の功績を称えるものです。

エンリコ・ラヴァは、その長いキャリアを通じて数多くのリーダー・アルバムおよび参加アルバムを制作しており、ジャズの歴史においてイタリアのみならず国際的にも重要な位置を占めるトランペッターと言えるでしょう。彼の音楽は、伝統への敬意と革新への意欲が見事に融合した、深く感情豊かなサウンドによって特徴づけられています。

主なリーダー・アルバム（抜粋）

『魚座の難破船』（The Pilgrim and the Stars, 1975年）
『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』（Enrico Rava Quartet, 1978年）
『イージー・リヴィング』（Easy Living, 2003年）
『ニューヨーク・デイズ』（New York Days, 2009年）

主な参加アルバム（抜粋）

スティーヴ・レイシー『森と動物園』（The Forest and the Zoo, 1967年）
セシル・テイラー『Alms/Tiergarten』（1989年）
* ジョー・ロヴァーノ『Roma』（2019年）

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