オイゼビウス・マンディチェフスキ

オイゼビウス・マンディチェフスキ（1857-1929）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてオーストリア＝ハンガリー帝国で活躍した、多才な音楽家であり学者である。彼は音楽学、音楽教育、指揮、そして作曲と、幅広い分野でその才能を発揮した。特に、博識な研究者として高い評価を得ていたが、自身の研究成果を積極的に出版することは少なかったと言われる。現在のウクライナにあたるブコヴィナ北部、当時はオーストリア＝ハンガリー帝国領であったチェルノヴィツの地に、正教会のウクライナ人司祭の子として生を受けた。

音楽への道を選んだマンディチェフスキは、ウィーン音楽院で専門教育を受けた。そこでは、音楽理論をグスタフ・ノッテボームに、作曲をロベルト・フックスに、そして音楽学をエドゥアルト・ハンスリックという、当時のウィーンを代表する著名な師事から指導を受けた。これらの学びは、彼の後の幅広い活動の基礎となった。特に重要な転機は、1879年にヨハネス・ブラームスと親交を結んだことである。彼はたちまちブラームスの信頼を得て、その親しい交友関係の中に深く入るようになった。ブラームスはマンディチェフスキを深く信頼し、門下のグスタフ・イェナーを指導する際には、彼に助言や協力を求めることさえあったという。ブラームスとの交流は、マンディチェフスキの音楽観や学術的な探求に大きな影響を与えたと考えられている。

マンディチェフスキの専門的なキャリアは、1887年にウィーン楽壇の要職に就いたことから本格的に始まった。彼はウィーン・ジングアカデミーの指揮者に就任し、またウィーン楽友協会の図書館司書の職も兼任した。楽友協会の図書館は、貴重な楽譜や音楽文献の宝庫であり、彼はその膨大なコレクションの整理と管理にあたった。この司書としての活動を通じて、彼は歴史的な楽譜や資料に関する深い知識と洞察力を養った。1897年にはウィーン音楽院の教授となり、音楽史の教鞭をとるようになった。その後、彼は楽器史、和声法、対位法、そして作曲といった、音楽の多岐にわたる専門分野で教育活動を展開した。彼の指導は的確かつ熱心で、多くの有為な音楽家を育成した。教育者としての実績が評価され、1916年にはオーストリア＝ハンガリー帝国の枢密院にも登用されるに至った。

マンディチェフスキの最も永続的な貢献の一つは、重要な作曲家の作品全集校訂における業績である。彼はフランツ・シューベルトとフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作品全集編纂において、校訂者としてその中心的役割を担った。これらの全集は、後世の研究者や演奏家にとって不可欠な信頼できる楽譜の基礎となった。さらに、彼は親友ヨハネス・ブラームスの作品全集完成にも貢献し、門下のハンス・ガルと共にその校訂を行った。これらの権威ある校訂版は、後年アメリカのドーヴァー社から復刻され、現在でも多くの研究者や演奏家にとって重要な資料として広く活用されている。校訂作業には、文献学的な知識、楽譜に関する深い理解、そして細部への細心の注意が必要であり、マンディチェフスキの博識ぶりが遺憾なく発揮された分野と言える。

ウィーン音楽院での長年の教育活動を通じて、マンディチェフスキは後に世界的な名声を博す多くの音楽家を育成した。彼の門下からは、著名な指揮者であるジョージ・セル、カール・ベーム、ヨーゼフ・クリップス、フリッツ・シュティードリー、そして偉大なピアニストであるアルトゥール・シュナーベルらが輩出されている。彼らの活躍は、マンディチェフスキが教育者としていかに優れた手腕を持っていたかを証明している。

研究者や教育者、校訂者としての活動の傍ら、マンディチェフスキは作曲も手がけた。特に、彼のウクライナ系のルーツを反映してか、正教会の奉神礼音楽に貢献している。その他にも、ピアノ曲や連作歌曲といったジャンルで作品を残している。これらの作品は、彼の音楽的な感性や、当時のオーストリア＝ハンガリー帝国の多様な文化背景を映し出している。

オイゼビウス・マンディチェフスキは、長年にわたる音楽界への貢献の後、1929年7月13日にニーダーエスターライヒ州のズルツという地で、71歳の生涯を閉じた。彼の遺した業績、特に作品全集の校訂や多くの優れた音楽家の育成は、今日の音楽研究や演奏活動においてもその重要性を失っていない。

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