オオマリコケムシ

オオマリコケムシ（大毱苔虫）

オオマリコケムシ（学名：Pectinatella magnifica）は、外肛動物門に属するコケムシの一種で、特にオオマリコケムシ科に分類されます。この生物は、池や沼といった日本の多くの淡水域に生息しており、特徴的な巨大な群体を形成することで知られています。

特徴と形態

オオマリコケムシは、個虫と呼ばれる微小な生物の集合体として群体を形成します。この群体は、個虫が分泌する厚い寒天質の基質中に埋没することで成り立ちます。群体は初期には小さな塊ですが、成長するにつれて球形から円盤状、さらには複雑な房状へと変化し、中には一畳を超えるほど、報告によれば最大2.8メートルに達する巨大なものも存在します。群体の表面には、個虫が規則的に並んだ多角形の網目模様が見られ、この模様と全体的な形状が日本の伝統的なまり（手毬）を思わせることから、「大毱苔虫」という和名が付けられました。

群体を構成する個虫は体長わずか1.5mm程度と非常に小さく、寒天質の表面に黒い点のように見えます。それぞれの個虫は「虫室」と呼ばれる寒天質の中に収まっており、外側に向かって馬蹄形の触手冠を展開しています。この触手冠の中央に口があり、Ｕ字型の消化管を経て、肛門は触手冠の外側に位置します。食性は濾過摂食で、触手冠を使って水中の微小な生物や有機物（デトリタス）を漉し取って食べます。個虫の口の近くには赤い色素があり、また触手冠の先端や虫体と寒天質の境界部分には乳白色の分泌物の塊が見られます。外肛動物に共通して循環器系は持たず、代わりに「胃緒」と呼ばれる紐状の組織が体内を満たしています。

生態と生殖

オオマリコケムシは雌雄同体であり、生活環の中で有性生殖と無性生殖の両方を行います。新たな群体は、有性生殖によって生じた幼生、または無性生殖による休芽から発芽した「初虫」と呼ばれる最初の個虫から始まります。

有性生殖では、個虫の体内で受精が行われ、発生中の幼生は親個虫の体内で保護されます。十分に成長した幼生は水中へ放出され、しばらく遊泳した後、適当な基物（水草や岩など）に付着して初虫となります。

無性生殖には二つの様式があります。一つは、群体内の個虫が増殖する際の出芽です。初虫は付着後、この出芽を繰り返して個虫の数を増やし、群体を拡大していきます。もう一つは、厳しい環境条件に耐えるための「休芽」（スタトブラスト）の形成です。休芽は、発生途中の個虫が頑丈なキチン質の殻に包まれた構造で、低温やある程度の乾燥に耐える高い耐久性を持っています。直径約1mmのこの休芽は、いびつな多角形で、殻の表面には特徴的な錨型の棘が多数見られます。休芽は個虫の胃緒で作られ、完成すると周囲に寒天質をまとって群体から放出されます。休芽は低温にさらされた後に適切な水温（17〜25℃）になると発芽し、春期の温暖な環境で活動を開始します。発芽の過程では、約5日間で虫体が形成され、殻を破って初虫として活動を始めます。

群体は夏から晩秋にかけて急速に成長しますが、冬季には表面の個虫が死滅し、寒天質の塊だけが残ります。オオマリコケムシはこの休芽の状態で越冬します。巨大化した群体は、付着物から離れて一時的に沈むことがありますが、寒天質中にガスが溜まることで再び水面に浮上することもあります。

分布と人間との関わり

オオマリコケムシは北米原産で、1900年頃に中央ヨーロッパへ、そして日本では1972年に山梨県の河口湖で初めて確認されました。その後、外来種として急速に分布域を拡大し、現在では日本各地の多くの湖沼で普通に見られるようになっています。琵琶湖や霞ヶ浦、雄蛇ヶ池などでは、しばしば大発生する現象が報告されています。

この生物は水質が悪化した水域で特に多く見られる傾向があります。積極的に人間に害を及ぼすという報告はありませんが、水道施設の取水口などに詰まり、物理的な障害を引き起こすことがあります。また、オオマリコケムシの分布拡大は、同じような生態的地位を占める在来種のコケムシ（カンテンコケムシやヒメテンコケムシなど）の減少に影響を与えていると考えられており、生態系への影響が懸念されています。

毒は持っていませんが、一般的に食用とはされていません。過去にはテレビ番組で特殊な調理法により食用とする試みが放送された例があります。その独特な外見と生態から、しばしばメディアなどで取り上げられ、注目を集める存在となっています。

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