オギュスト・マリエット

オギュスト・マリエット：エジプト考古学の先駆者とオペラ『アイーダ』の原案者

オギュスト・マリエット（Auguste-Ferdinand-François Mariette, 1821年2月11日 - 1881年1月19日）は、19世紀に活躍したフランスのエジプト考古学者であり、「マリエット＝ベイ」の異名でも知られています。カイロのエジプト考古学博物館は彼の死後に創設されましたが、その展示物の多くはマリエット自身が蒐集したものです。また、ヴェルディの有名なオペラ『アイーダ』の原案を著したことでも広く知られています。

生涯

誕生と初期の活動

マリエットは、フランス北部のブローニュ＝シュル＝メールで地方官吏の子として生まれました。18歳でイングランドに渡り、フランス語教師や工業デザイナーとして働きましたが、いずれも成功せず、1841年に故郷に戻り文学士の学位を取得しました。

エジプト考古学への目覚め

マリエットの人生を変えたのは、従兄弟の存在でした。従兄弟は著名なエジプト考古学者ジャン＝フランソワ・シャンポリオンの友人で、エジプト発掘にも参加していました。従兄弟の死後、マリエットは彼が持ち帰った発掘品や文書を整理するうちに、エジプトに深い関心を抱くようになります。独学でエジプトの歴史、ヒエログリフ、コプト語などを学び、パリで研究を続けました。

エジプトでの活動

1849年、マリエットの努力が認められ、ルーヴル美術館のエジプト考古部に職を得ます。翌1850年には、念願のエジプト出張を命じられました。当初の目的はコプト語、シリア語、アラビア語などの文書を蒐集することでしたが、1851年にエジプトに到着すると、メンフィス近郊のサッカラでセラピス神殿を発見するなど、発掘作業に没頭します。結局、4年間をエジプトで過ごし、多くの発掘品をルーヴル美術館に持ち帰りました。

1857年、マリエットは再びエジプトへ。1858年にはエジプト総督イスマーイール・パシャから「ベイ」、1879年には「パシャ」の称号を与えられるなど、支配層からの信頼も厚く、1858年に創設されたエジプト考古局の初代長官に就任しました。長官として、マリエットは大規模な発掘活動を推進し、最盛期には3,000人もの作業員を使い、アスワンから地中海沿岸まで35か所以上の発掘地点で作業を行いました。この頃から、発掘品の国外持ち出しに否定的な考えを持つようになります。

また、スエズ運河の掘削を指揮したフェルディナン・レセップスの経済的支援を受け、1863年にはカイロのブラークに考古博物館を設立し、自ら館長として居住しました。

オペラ『アイーダ』の原案

1870年、イスマーイール・パシャの依頼を受け、古代エジプトを舞台としたオペラの原案を執筆しました。発掘作業中に発見した男女の遺体にインスピレーションを受け、この物語を書いたとも伝えられています。23ページにわたる原案は、多くの人々の手を経て、ヴェルディの傑作オペラ『アイーダ』として結実し、1871年にカイロで初演されました。マリエットは初演に際し、考証的な見地から協力しました。

晩年

私生活では、1845年に結婚し11人の子供をもうけましたが、そのうち5人の子供と妻をエジプトで伝染病で亡くしています。1878年には自宅が洪水の被害を受け、多くの論文や書籍が流失しました。エジプトの財政難により発掘活動が停滞する中、糖尿病が悪化し、1881年にカイロで亡くなりました。遺体は石棺に納められ、現在はエジプト考古学博物館の前庭に眠っています。

関連項目

* 瀬名秀明の小説『八月の博物館』では、マリエットが主要な登場人物として描かれています。

オギュスト・マリエットは、エジプト考古学の発展に大きく貢献した人物であり、その功績は現在も称えられています。

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