オグデン・フィップス

オグデン・フィップス（1908年 - 2002年）は、アメリカ合衆国におけるコートテニスと競馬の両分野で成功を収めた稀有な人物です。ニューヨーク州ニューヨーク市に生まれ、裕福な家庭環境で育ちました。彼の名は、母方の叔父であるオグデン・リビングストン・ミルズに由来しています。

ハーバード大学卒業後、フィップスは輝かしいテニスキャリアを歩みます。アメリカ選手権で7回、イギリス選手権で1回優勝するなど、その卓越した技量は広く認められ、2001年には国際コートテニス殿堂入りを果たしました。第二次世界大戦中はアメリカ海軍に所属し、祖国に貢献しました。戦後は、ビジネスの世界へ転身し、証券会社を経営して成功を収めました。多様な才能を持つフィップスは、18世紀のイギリスとフランスのインテリアや、クロード・モネやジョン・シンガー・サージェントといった巨匠の美術品を収集するなど、芸術への造詣も深かったと言われています。彼の温室には世界中から集められたランが咲き誇り、その情熱は多岐にわたりました。2002年、フロリダ州ウェストパームビーチでその生涯を終えました。

しかし、フィップスの名を不朽のものとしたのは、何と言っても競馬界での功績です。1932年、母のグラディスと弟が設立したホイートリーステーブルが、彼の競馬への関与の始まりでした。第二次世界大戦後には、エドワード・ライリー・ブラッドリー大佐の所有馬を引き継ぎ、クレイボーンファームで生産・育成を行うなど、本格的に競馬ビジネスに参入します。

フィップスは、ニューヨーク競馬協会（NYRA）の設立にも貢献し、1988年まで理事を務めました。その後も名誉理事として協会を支え続けました。アメリカジョッキークラブ会長も20年間務め、その影響力は絶大でした。彼の所有馬、生産馬からは9頭ものエクリプス賞受賞馬が輩出されました。1988年には、エクリプス賞最優秀生産者と最優秀馬主を同時受賞するという快挙を達成し、2002年にはエクリプス賞功労賞を受賞しました。ベルモントパーク競馬場で行われていたヘムステッドハンデキャップは、彼の功績を称え、オグデンフィップスハンデキャップと改称されました。

私生活においては、1937年にリリアン・ボストウィックと結婚しました。リリアンは、障害馬の馬主として8回アメリカグランドナショナルを制覇し、2頭の殿堂馬を所有するなど、競馬界で成功を収めました。彼女の弟は、障害騎手として殿堂入りを果たしたジョージ・ボストウィックです。フィップスの妹、バーバラ・フィップス・ジェニーもまた馬主として活躍し、ラフィアンを所有していました。フィップスとリリアンには3人の子供が生まれました。フィップスの死後、彼の事業は息子オグデン・ミルズ・フィップスを中心に引き継がれ、娘のシンシア・フィップスや息子のロバート・リー・フィップスも競馬界に関わっています。

フィップスの所有馬、生産馬の中には、多くの名馬が名を連ねています。その中でも、特に記憶に残る馬として、アメリカ殿堂馬であるバックパサー、イージーゴア、パーソナルエンスンなどが挙げられます。これらの馬は、クラシック競走やブリーダーズカップで勝利を収め、競馬史にその名を刻みました。さらに、アジュディケーティングやシーキングザゴールドといった成功した種牡馬、イントリーギングといった繁殖牝馬も、フィップスの生産・所有馬です。

オグデン・フィップスは、テニスと競馬という一見無関係に見える2つの分野で卓越した成功を収めた稀有な存在でした。彼の生涯は、才能、努力、そして情熱がもたらす偉業を物語る、感動的なものです。

もう一度検索