オスカー・シュレンマー

オスカー・シュレンマー（1888年9月4日 - 1943年4月13日）は、ドイツの芸術家、彫刻家、デザイナーであり、バウハウスの教員としてその名を広く知られています。彼は20世紀前衛芸術を代表する一人として、絵画、彫刻、舞台芸術など多岐にわたる分野で革新的な作品を生み出しました。

バウハウスでの活動

1923年、シュレンマーはバウハウスの舞台工房の造形主任として迎えられました。彼は1920年から9年間バウハウスで教鞭をとり、中心的なメンバーとして重要な役割を果たしました。彼の講義「人間」は、人体の動きや構造を分析し、思考や感情の原理を捉え直す画期的なものでした。この講義は、彼の作品における人間に対する独特な視点を形成する上で重要な役割を果たしました。

しかし、ナチスの台頭により、シュレンマーの作品は退廃的であるとみなされ、職を解任されてしまいます。彼の作品は、純粋な抽象化を拒否し、人間性を残した抽象化を追求するものでした。それは感情的な表現ではなく、人間を物理的な側面から追求したデザインであり、彼の芸術観の根幹をなしていました。

トリアディッシェス・バレエ

シュレンマーの最も有名な作品は、1922年に初演された「トリアディッシェス・バレエ」です。このバレエは、立方体、円錐、球体といった幾何学的な基本形を用いた独特のコスチュームを身に着けたダンサーたちが、ロボットのようなメカニカルな動きをするという、従来のバレエの概念を覆すものでした。形態、色、光を駆使して創り出された新しい舞台空間は、観客に大きな衝撃を与えました。

「トリアディッシェス」とは「三つ組み」を意味し、このバレエは「滑稽な場」、「荘厳な場」、「幻想的な場」の3つの場面で構成されています。3人のダンサーが12通りのダンスを18種類の衣装を身に着けて踊り、徹底的に「3」という数字にこだわった構成となっています。バウハウス閉鎖後、このバレエは長らく忘れ去られていましたが、1989年の東西ドイツ統合時にバウハウスが再建された際、復元公演が行われ、再び注目を集めるようになりました。

舞台芸術への貢献

シュレンマーは、舞台工房を率いる中で、人間をメインテーマにした作品を数多く制作しました。1920年代、都市の発展や機械の登場は人々に大きな衝撃を与え、その影響はアートの世界にも及びました。シュレンマーの絵画や舞台に登場する人間たちは、まるで機械仕掛けのロボットのように見えることがありますが、これは当時の社会に対する彼の反応の一つと言えるでしょう。

彼は1920年から1929年までバウハウスで教鞭をとり、1923年からは舞台工房を担当しました。劇場という総合的演技空間から多くの示唆を受け、ダンスにおける抽象化の理論化を実践しました。振り付け、衣装、舞台美術、音楽など、すべてを自身で創作・監修することで、舞台芸術の可能性を大きく広げました。

シュレンマーのバレエに秘められた未来へのメッセージは、今もなお謎に包まれています。バウハウスは、機能主義的な生産工房として捉えられがちですが、ダダ的な要素や祝祭的な側面、シュルレアリスムへの影響、有機的で地球環境的な芸術志向も持っていました。シュレンマーの作品は、バウハウスの多面性を象徴するものであり、今日においても多くの人々に影響を与え続けています。

日本語文献

『バウハウスの舞台　バウハウス叢書4』利光功訳（中央公論美術出版、1991年、新装版2020年）全14巻、ISBN 480-5510544
シュレンマーの舞台芸術論を中心に、モホリ＝ナギ「演劇、サーカス、ヴァラエティー」や、ファルカス・モルナールによる多数の図版を収め、バウハウスの舞台活動を知る上で不可欠な文献です。
柴田隆子『オスカー・シュレンマー　バウハウスの舞台芸術』（水声社、2021年）

作品

絵画「バウハウスの階段」（ニューヨーク近代美術館所蔵）

外部リンク

Volker Straebel's essay on 'The Mutual Influence of Europe and North America in the History of Musikperformance' / Oskar Schlemmer's Triadisches Ballett
Oskar Schlemmer - Find a Grave（英語）
* 『シュレンマー』 - コトバンク

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