オズレム・テュレジ

オズレム・テュレジ（Özlem Türeci, 1967年 3月6日生まれ）は、ドイツ出身の著名な医師、科学者、そして起業家です。特にバイオテクノロジー分野での功績が広く知られており、夫であるウール・シャヒン博士とともに、世界的なバイオテクノロジー企業ビオンテック（BioNTech）を共同で設立しました。ビオンテックは、2020年に世界で初めて承認されたCOVID-19に対するmRNAベースのワクチンの開発を主導したことで、その名を知られるようになりました。テュレジ博士自身も、この画期的なワクチン開発における主要な推進者の一人として、国際的に高く評価されています。

テュレジ博士は、1967年にドイツのニーダーザクセン州ラシュトルップに生まれました。彼女はトルコからの移民の娘であり、母親は生物学者、父親は外科医でした。父親は地元の病院で医師として働いていました。幼少期には、一時的に尼僧になることを考えていた時期もあったといいます。ドイツ国内のギムナジウムで学んだ後、医学の道を志し、ホンブルクにあるザールラント大学で医学を修めました。1992年には同大学医学部で博士号を取得。さらに分子医学を学び、ドイツ研究振興協会（DFG）のフェローとして研究を進めました。彼女の研究の中心は、腫瘍特異的な分子の特定と癌に対する免疫療法の開発でした。2002年には、マインツのヨハネス・グーテンベルク大学で分子医学の分野で教授資格を取得しています。

ザールラント大学病院での学生時代、テュレジ博士は将来の夫となるウール・シャヒン博士と出会いました。二人は癌を免疫システムで治療することへの深い関心を共有しており、これが共同での研究や起業につながる基盤となりました。二人は2002年に結婚し、娘をもうけています。テュレジ博士とシャヒン博士は、設立した企業を通じて大きな成功を収め、ドイツの富豪にランクインしましたが、現在も質素な生活を続けていることで知られています。

彼女のキャリアはマインツ大学医療センターから始まりました。免疫学の作業チームを率いる傍ら、癌免疫療法の分野で大学の私講師を務めました。2001年には、夫のウール・シャヒン博士、指導教授のクリストフ・フーバー博士と共に、非営利のバイオ医薬品研究所であるTRONを共同設立。TRONは、治療法が未確立な疾患（アンメット・メディカル・ニーズ）に対応するため、新しい診断法や医薬品の開発を行いました。ガニメド・ファーマシューティカルズとビオンテックは、マインツ大学での研究からスピンオフする形で設立された企業です。

2001年、テュレジ博士とシャヒン博士は、ガニメド・ファーマシューティカルズ株式会社を設立しました。この会社は、モノクローナル抗体を用いた新しいクラスの抗がん剤開発に焦点を当てました。テュレジ博士は、2001年から2008年まで最高科学責任者（CSO）、その後2008年から2016年まで最高経営責任者（CEO）を務め、会社の成長を牽引しました。2016年、ガニメドは日本の製薬会社アステラス製薬によって14億ドルで買収されました。

ガニメドの売却後、テュレジ博士、ウール・シャヒン博士、クリストフ・フーバー博士は、2008年にビオンテック社を設立しました。テュレジ博士は2018年から同社の最高医療責任者（CMO）として、臨床研究および開発の責任者を務めています。ビオンテックは当初、癌などに対する個別化免疫療法の開発に注力していましたが、2020年のCOVID-19パンデミック発生時には、そのmRNA技術を迅速に転用し、ファイザー社と共同で、世界初のCOVID-19ワクチン開発を成功させました。カタリン・カリコー博士など、mRNA技術の専門家をチームに迎えたことも、この成功に貢献しました。

ビオンテック以外では、テュレジ博士はドイツのCluster for Individualized Immune Intervention (Ci3) e.V. の共同創設者・議長、ヨーロッパ最大のがん免疫療法学会（CIMT）会長など、多くの組織で重要な役割を担っています。彼女は80件以上の特許と110件を超える査読論文を発表しており、その研究成果は多岐にわたります。

その功績により、テュレジ博士は数多くの栄誉に輝いています。ドイツ国内外で権威ある科学賞や社会貢献に関する賞を多数受賞しており、2021年にはドイツ連邦共和国功労勲章も受章しました。また、COVID-19ワクチン開発に関する経験などをまとめた著書も出版しています。オズレム・テュレジ博士は、癌免疫療法およびmRNA技術の発展に大きく貢献し、現代医療に多大な影響を与え続けています。

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