オトマール・シュパン

オトマール・シュパン：保守革命の思想家

オトマール・シュパン (1878-1950) は、20世紀初頭のオーストリアを代表する保守派の経済学者、哲学者、そして社会学者でした。彼は権威主義的コーポラティズムの理論を構築したことで知られ、オーストリア保守革命の主要な思想家の一人として位置付けられています。自由主義と社会主義の双方を批判し、独自の社会秩序モデルを提唱した彼の生涯と思想を紐解いていきましょう。

ウィーンから世界へ：シュパンの生い立ちと学問

シュパンはウィーン郊外のアルトマンスドルフで、発明家の父のもとに生まれました。ウィーン大学、チューリッヒ大学、ベルン大学で哲学と政治学を学び、1903年にはテュービンゲン大学で政治学博士号を取得します。彼の博士論文は「現代社会学における社会概念の批判について」というもので、既に彼の思想の端緒が見て取れます。

卒業後はフランクフルトで社会調査に従事した後、オーストリア政府の国勢調査に携わります。1907年には政治経済学の資格を取得し、大学で私講師として教鞭を執り始めました。第一次世界大戦では従軍し、東部戦線で負傷する経験もしています。1919年にはウィーン大学教授に就任し、1938年の退官まで同大学で教鞭を執りました。

コーポラティズムと政治活動：思想と現実の狭間で

シュパンの主要な思想はコーポラティズムです。これは、社会を様々な職能団体（コーポレーション）によって構成され、それらが国家と協調して経済と社会を運営するという考え方です。彼はこの理論を基に、政治へのコーポラティズム導入を主張しました。1928年にはドイツ文化闘争同盟に参加し、1930年頃にはナチス党に入党したとされています。

シュパンの反個人主義的な思想は、カール・ポランニーによってファシズムに多大な影響を与えたと指摘されています。しかし、シュパン自身は時代精神と必ずしも一致していたわけではなく、アンシュルス後の1938年、ナチ党員であったにもかかわらず、ナチス政権によって投獄され、ウィーン大学教授の職を追われました。この出来事は、彼の思想と現実の間に存在した複雑な関係を示すものです。

シュパンの弟子たちと多大な影響

シュパンは多くの優れた弟子を育てました。その中には、オーストリア学派の経済学者として著名なオスカー・モルゲンシュテルンとフリードリヒ・ハイエク、そして政治哲学者エリック・フェーゲリンなどが含まれます。特にハイエクは、後にノーベル経済学賞を受賞し、自由主義経済学に大きな貢献をしました。シュパンの思想は、彼らを通して現代経済学や政治思想に多大な影響を与え続けています。

出版物と死：後世への遺産

シュパンの著作は膨大で、経済学、社会学、哲学など多岐に渡ります。彼の著作は『Othmar Spann Gesamtausgabe』として全集が出版されており、その中には経済学の理論、社会哲学、歴史哲学、そして自然哲学に関する著作が含まれています。これらの著作は、彼の思想体系を理解する上で重要な資料です。

シュパンは1950年、失意のうちに亡くなりました。しかし、彼の残した思想と業績は、現代社会におけるコーポラティズム論、保守主義思想、そしてオーストリア学派の経済学の発展に多大な影響を与え続け、今もなお研究され続けています。彼の生涯は、時代とのかかわりの中で揺れ動いた思想家の葛藤と、その後の大きな影響を示す、複雑で興味深いものです。

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