オニバス

オニバス（鬼蓮）

オニバスは、スイレン科に属する一年生の水生植物です。学名は Euryale ferox といい、オニバス属を構成する唯一の種です。その名の通り、大きな葉とトゲが特徴で、水面に広がる巨大な葉は存在感があります。

特徴

オニバスは、水底の地下茎から葉柄を伸ばし、夏に巨大な葉を水面に広げます。葉の表面には不規則なシワがあり、両面や葉柄にはトゲが生えています。夏には紫色の花を咲かせますが、多くは水中で閉鎖花として自家受粉します。葉は初期には沈水葉として針状や矢じり形をしていますが、成長すると円形の浮水葉となり、直径は0.3〜1.5メートルにも達します。記録では2.6メートルのものも存在します。

葉

沈水葉: 芽生え初期に見られ、トゲはありません。
浮水葉: 初期は長楕円形、後期は円形になり、葉柄の中心付近につきます。葉柄には多数のトゲがあります。葉身は硬くもろく、つぼみが水面に出る際に破れることがあります。表面には光沢があり、シワと葉脈上のトゲが目立ちます。裏面は濃紫色で、葉脈が網目状に隆起し、トゲがあります。

花

花は地下茎から伸びた花柄の先端に一つずつ咲きます。日本では6月から10月にかけて、水中で閉鎖花が多く見られ、自家受粉します。7月から9月には水上で開放花を咲かせます。開放花は日中に開花し、夜には閉じます。萼片は4枚で緑色、トゲがあり、宿存性です。花弁は多数あり、外側が紫色、内側が白色です。雄しべも多数あり、心皮は7〜16個が合着して雌しべを構成します。子房は下位で、表面にはトゲが密生しています。

果実と種子

果実は液果状で球形から楕円形、トゲで覆われています。不規則に裂開し、多数の種子を散布します。種子は球形で、種皮にはシワがあるものから平滑なものまであります。仮種皮に覆われた種子は、しばらく浮遊した後、水底に沈みます。翌年発芽するものもあれば、数年から数十年休眠してから発芽することもあります。

分布

オニバスは、東アジアから南アジアにかけて分布しており、日本では本州、四国、九州に生育していましたが、環境の変化により減少しています。かつては宮城県が北限でしたが、現在は新潟県が北限となっています。富栄養の湖沼や流れの緩やかな河川、水路に生育し、ヒシなどと共生することが多いです。かつては普通種でしたが、現在は激減し、絶滅が危惧されています。

保全状況

日本では、環境悪化や埋め立て、河川改修などにより、オニバスの自生地が失われ、絶滅危惧II類に指定されています。各都道府県でも絶滅危惧種に指定されており、すでに絶滅した地域もあります。富山県氷見市の「十二町潟オニバス発生地」は国の天然記念物でしたが、1979年以降にオニバスは姿を消し、復活に向けた取り組みが行われています。

人間との関わり

日本では古くから知られており、『枕草子』にも「みずふぶき」という名前で登場します。中国やインドでは種子が食用とされており、栽培もされています。また、果実や若い葉柄も食用にされることがあります。種子は「芡実（けんじつ）」と呼ばれ、生薬としても用いられます。

系統と分類

オニバスは、オニバス属の唯一の種です。オオオニバス属とは近縁で、姉妹群の関係にあります。かつてはオニバス科として分類されていたこともありますが、分子系統学的研究から、スイレン属に含まれることが示唆されています。

その他

オニバスは、その独特な姿と生態から、多くの人々に興味を持たれています。しかし、その生育環境は危機に瀕しており、保全活動が不可欠です。

脚注

植物形態学 を参照

西宮の湿生・水生植物 を参照

日本のレッドデータ検索システムを参照

水の公園福島潟を参照

三重県の歴史の情報蔵を参照

Plants of the World Onlineを参照

GBIF Backbone Taxonomyを参照

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