オパリナ

オパリナ（Opalina）

オパリナは、主にカエルやオタマジャクシといった両生類の腸管内に生息する単細胞生物の仲間です。多数の短い鞭毛が体表面を密に覆っており、その外見はゾウリムシのような繊毛虫によく似ていますが、分類学上は異なるグループに属しています。原生生物の中でも、コンブや珪藻などが含まれるストラメノパイルと呼ばれる大分類群の一員とされています。

これらの生物は宿主の消化管内で、通常は積極的に害を与えることなく生きており、片利共生の関係にあると考えられています。オパリナという名前は、彼らが水中で泳ぐ際に光を受けてオパールのようにきらめく様子から名付けられました。この名前を持つ生物は、オパリナ類以外にも巻貝のオパールキリガイダマシなどが知られています。

「オパリナ」という言葉は、厳密には特定の種（Opalina属）を指すこともありますが、より広義には約5属からなる近縁な生物群全体の総称として使われます（オパリナ類とも呼ばれます）。世界各地に様々な種類のオパリナ類が分布しており、その宿主も多様です。両生類が主な宿主ですが、一部の種は軟体動物や魚類からも見つかっています。日本で一般的にオパリナとして認識されているのは、Opalina japonicaという種です。

細胞の構造と栄養

オパリナ類の細胞は比較的大きく、およそ100マイクロメートルから300マイクロメートル程度のサイズがあります。細胞表面全体から宿主の消化管の内容物を吸収して栄養を得る「吸収栄養性」という生活様式をとっており、食べ物を取り込むための細胞口や、細胞内の水分バランスを調節する収縮胞は持っていません。細胞内には複数の細胞核が存在し、その数はわずか2個のものから、多いものでは数百個に達するものまで、種類によって大きく異なります。

細胞膜の直下には、皮層と呼ばれる微小管でできたしっかりした構造があり、これが細胞の形を保つ役割を担っています。細胞表面には鞭毛が整然と列をなして並んでおり、これが繊毛虫のような特徴的な外見を与えています。

複雑な生活環

代表的なOpalina属の多くは、カエルとオタマジャクシの間を移動しながら生活する複雑な生活環を持っています。カエルの腸管内では、トロフォントと呼ばれる大型で多数の核を持つ細胞が無性的に分裂を繰り返します。この分裂は細胞の成長を伴わない「パリントミー」と呼ばれる特殊なもので、分裂を繰り返すにつれて細胞は次第に小さくなっていきます。一定のサイズ以下に小型化した細胞は硬い殻に覆われたシストとなり、カエルの排泄物とともに外部に放出されます。

放出されたシストがオタマジャクシに食べられて腸管に入ると、シストから脱出して細胞が増殖します。ここで、一部の細胞は分裂して異なる形態の配偶子（生殖細胞）を作り出し、それらが接合するという有性生殖の過程を経ます。有性生殖環から外れた一部の細胞は再び大型化し、カエルへの移動準備を整えます。カエルへ移動する代わりに、オタマジャクシの体内で再び無性生殖（パリントミー）を行い、シスト化して外部に出る経路も存在します。

分類学上の位置づけ

かつて、オパリナ類はその多数の鞭毛列を持つ外見から、繊毛虫類に含められたり、原始的な繊毛虫として扱われたりしていました。しかし、繊毛虫に見られる細胞核の大核・小核への分化を欠くことから、1960年代には肉質鞭毛虫門に移されました。

1980年代以降、分子系統解析が進み、肉質鞭毛虫門が単一のグループではないことが明らかになると、オパリナ類は独立した分類群として認識されるようになりました。さらに1993年には、細胞表面の皮層構造の類似性に基づき、プロテロモナス類と呼ばれる単核・少鞭毛の寄生性原生生物がオパリナ類に統合され、「Slopalines」という名称で、これが最も広義のオパリナ類として提唱されました。このSlopalinesというグループの単系統性（一つの共通祖先から分かれたグループであること）は、その後の分子系統解析によっても支持されています。

一方で、2000年代以降、オパリナ類が繊毛虫や渦鞭毛藻を含む「アルベオラータ」という別の大きな分類群に属するという説も再び提唱されています。これは特定の遺伝子（β-チューブリン）の分子系統解析の結果に基づくものですが、過去には遺伝子配列にコンタミネーション（汚染）が見つかった例もあるため、分子系統の結果のみに頼る判断には慎重さが必要です。また、Protoopalinaのような2つの核を持つオパリナ類が、大核と小核を持つ繊毛虫と何らかの系統的なつながりを持つ可能性を示唆する細胞構造上の特徴も指摘されています。

主な分類群

最も広義のオパリナ類であるSlopalinesは、主に以下の2つの科に分けられます。

オパリナ科（Family Opalinidae）

一般的にオパリナ類として認識されるグループで、多数の鞭毛と複数の細胞核を持つ大型の寄生性鞭毛虫です。

Protozelleriella属: 細胞核は2個。平たい円盤状で直径約100μm。南アフリカ産のカエルからのみ報告があります。
Zelleriella属: 細胞核は2個。細長い細胞形で、南半球を中心に分布し、カエルや魚類から見つかっています。
Protoopalina属: 細胞核は2～18個。細長い細胞で、鞭毛列が体の長軸に沿って走ります。アジアを中心に分布し、カエルや魚類を宿主とします。日本からは2核性のP. limnocharis（ヌマガエルに寄生）や、4～18核性のP. hexasoma（ニホンヒキガエル、トノサマガエルに寄生）などが知られています。
Cepedea属: 多数の核を持つ大型（数百μm）の細胞で、扁平で後部が細くなる特徴があります。南北アメリカ大陸など「新世界」に多く、両生類のほか、稀に魚類やカタツムリにも寄生します。
Opalina属: 多数の核を持つ大型（数百μm）の細胞で、扁平な楕円形です。様々なカエルの腸管に生息し、爬虫類や淡水性の二枚貝からも報告があります。日本で最もよく見られるOpalina japonicaは本属に属し、細胞内に100～170個もの核を持ち、扁平な体を回転させながら泳ぎます。主にニホンアカガエルに寄生しています。

プロテロモナス科（Family Proteromonadidae）

オパリナ科とは異なり、細胞全体を覆う鞭毛を持たず、細胞の前端部に2～4本の鞭毛を持つ、単核性の寄生性鞭毛虫です。細胞サイズはオパリナ科より小さい傾向があります。

Proteromonas属: 体長25μm前後。細胞前部から2本の鞭毛を生じます。主にトカゲを宿主としますが、両生類や哺乳類の内臓からも発見されています。
* Karotomorpha属: 体長12～16μm程度の小型種。細胞前部から4本の鞭毛を生じます。アカガエル類やアホロートルなどを宿主とし、世界各地から報告があります。

オパリナ類の研究は、寄生性単細胞生物の多様性や進化、特に繊毛虫との関係性を理解する上で重要な知見をもたらしています。

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