オフ・トゥ・ザ・レイシス

『オフ・トゥ・ザ・レイシス』 ドナルド・バード

ジャズ・トランペット奏者、ドナルド・バードが1958年に録音し、翌1959年に名門ブルーノート・レコードから発表したスタジオ・アルバム『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は、彼のキャリアにおいて重要な転換点となった作品です。これは、彼にとってブルーノートでの初のリーダー名義アルバムであり、以後1976年まで、バードのリーダー作品の多くがこのレーベルからリリースされるという、長期にわたる関係の始まりを告げるものでした。

本作が制作されるまで、バードはすでにブルーノートの数多くのセッションでサイドマンとして活躍し、その存在感を示していました。1956年以降、彼はポール・チェンバース、ホレス・シルヴァー、ハンク・モブレー、ソニー・ロリンズ、ルー・ドナルドソン、ジミー・スミス、ソニー・クラーク、ディジー・リース、アート・ブレイキーといった、当時のジャズ界を代表するトップミュージシャンたちの録音に、トランペット奏者として参加しています。これらの経験を経て、満を持して自身のリーダー作をブルーノートから発表するに至ったのが本作です。

アルバムの音楽性は、当時のジャズの潮流であったハード・バップ・スタイルを基調としています。オールミュージックの評論家、Stephen Thomas Erlewineは本作に5点満点中4点を与え、バードの1950年代後半のセッションの中でも特に活気に満ちた作品の一つであると評価しています。また、演奏が巧みで、聴いていて楽しいハード・バップ作品であるとしつつも、「特に驚くべき要素はない」とも指摘しています。これは、本作が奇をてらわず、ハード・バップの王道をしっかりと踏襲した堅実な演奏であることを示唆しています。

本作の録音には、バードを支える強力なメンバーが集結しました。アルト・サクソフォーンにはジャッキー・マクリーン、バリトン・サクソフォーンにはペッパー・アダムス、ピアノにはウィントン・ケリー、ベースにはサム・ジョーンズ、そしてドラムスにはアート・テイラーという、当時のハード・バップ・シーンを牽引する面々が参加しています。彼らの熟練したアンサンブルが、バードのトランペットを力強く支え、作品全体の完成度を高めています。

収録されているのは、全6曲です。

• - 恋人よ我に帰れ - "Lover Come Back to Me" (Oscar Hammerstein II, Sigmund Romberg)
• - ホエン・ユア・ラヴァー・ハズ・ゴーン - "When Your Love Has Gone" (Einar Aaron Swan)
• - サッドウェスト・ファンク - "Sudwest Funk" (Donald Byrd)
• - ポールズ・パル - "Paul's Pal" (Sonny Rollins)
• - オフ・トゥ・ザ・レイシス - "Off to the Races" (Donald Byrd)
• - ダウン・テンポ - "Down Tempo" (Donald Byrd)

※作曲者の記載は、オリジナルの情報に基づき、「特記なき楽曲はドナルド・バード作」を踏まえて付記しています。

『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は、ドナルド・バードのブルーノートにおける輝かしいリーダー・キャリアの幕開けを飾る作品として、ジャズ史にその名を刻んでいます。ハード・バップの佳作として、当時の勢いと質の高さを今に伝える一枚と言えるでしょう。

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